新しい仕事や環境などでストレスがたまると、イライラ感がつのるものです。ちょっとした気分転換で治まればよいのですが、そのイライラ感が日を追うごとに強くなることはありませんか? 布団に入っても眠れず、寝不足で疲労感が抜けず、いつもなら、しないようなミスも。自己嫌悪と気分の落ち込みで、涙を流したくなるような状況です。こうした症状が、女性の更年期では起こります。
「更年期の女性ホルモン(エストロゲン)の減少は、自律神経などに悪影響を及ぼし、イライラ感の後押しをします。ホットフラッシュのような体調不良が合わさるとなおさらです。加えて、更年期世代は、生活環境も変化しやすく、それが気分変調を強くすることがあります」
こう説明する国際医療福祉大学三田病院婦人科教授の上田和医師は、婦人科系のがん治療を数多く行っています。がん治療のために卵巣を摘出すると、若い世代でも更年期障害を引き起こすため更年期障害の治療に対する造詣も深いのです。
「45~55歳の女性は、更年期の体調変化、ご家族の自立や退職、ご両親の介護など、さまざまな環境の変化にさらされています。そのストレスも重なることで、更年期の症状を強くしてしまうのです」
更年期世代は、ホットフラッシュなどの更年症状以外に、女性ホルモンの減少で、乳房の萎縮や肌のハリが失われるなど、女性らしさの喪失感を抱きやすい時期を迎えます。「失われゆく若さ」の寂しさに加え、子どもが独立するなど生活環境も変わる時期と重なります。
夫が先に退職したことで生活のペースが乱れ、両親の介護で趣味の時間は失われ、ため息が出そうな状況に追い打ちをかけるように、友人の訃報…。こうした精神的な激しいダメージを受けることもあるのです。
「メンタル面については、夫や友人が話を聞いてくれるだけでも、楽になったという方が少なくありません。周囲の方には更年期の女性の話を傾聴し、同調することで、メンタル面を支えていただきたいと思います」
ただし、夫や友人が話を聞くときには注意が必要です。「更年期だから仕方がない」「気にしないで」「がんばれ!」という言葉は禁句。逆効果になります。「つらいね」「何か手伝うことはある?」と同調する言葉を選ぶと、よいそうです。
「エストロゲンが減ると脳の幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが減って、不安感が強くなります。スキンシップは幸せホルモンを上昇させるといわれています。ハグをしたり、ご夫婦で一緒にウオーキングやヨガなどに取り組むのも、イライラ感を鎮める一助になると考えられます」
一般的に更年期の症状は、運動不足の人に強く出やすいといわれています。イライラ感が募ってきたら、体を動かしてリラックスしましょう。ヨガも精神を安定させるために役立ちます。
「飲酒でイライラを紛らわそうとすると、症状がより強くなるなど逆効果です。健康のためにも、更年期は禁酒を心掛け、生活リズムをなるべく崩さないようにしましょう」
環境も体調も変わって苦しいことが重なってしまったら、1人で悩むことなく医療機関を受診することもお忘れなく。