青山学院大の長距離ランナーの腸内環境を調べた
腸内環境研究の第一人者として知られる福田真嗣氏は、研究者兼経営者として、腸内細菌が有する健康効果の機能解明とその実用化に関する研究開発を日夜続けている。
慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授として実施したのが、青山学院大学陸上競技部(長距離ブロック)に所属する長距離ランナーの腸内環境研究だ。
青学の長距離ランナーを対象に、タイムが速く持久力のある選手の腸内細菌には何か秘密があるかもしれないとの仮説を立てた。
アスリートは腸内細菌叢が多様性に富む
研究では青学の長距離ランナーら48人(アスリート群)と、一般男性群10人から便を採取し、腸内細菌叢(そう=腸内フローラ)の比較・分析を行った。
その結果、アスリート群は一般男性群より腸内細菌叢が多様性に富み、特にバクテロイデス・ユニフォルミスという腸内細菌が多く存在することが判明した。また、3000メートルの走行タイムが速い選手ほど、バクテロイデス・ユニフォルミスが多く、動物試験ではバクテロイデス・ユニフォルミスが腸内で作る短鎖脂肪酸が持久力向上に寄与することも明らかとなった。
特定の腸内細菌をとると走行タイムが上がる
さらに福田氏らは、バクテロイデス・ユニフォルミスが増えれば、一般男性らのパフォーマンスも向上するのかについても調べた。
一般男性群(20~49歳)について、バクテロイデス・ユニフォルミスを増やすことが期待されるα—シクロデキストリン(環状オリゴ糖)を摂取する群と、プラセボ(偽物)群に分けて、8週間後のパフォーマンスを比較した。その結果、α—シクロデキストリン摂取群は試験開始時と比べ、バクテロイデス・ユニフォルミスが腸内で有意に増え、エクササイズバイク(スポーツジムにあるバイク)の10キロの走行タイムが約10%短縮した。
腸内細菌が持久力に寄与
これまでアスリートの腸内細菌叢は多様性に富むことが報告されてきたが、本研究では、特定の腸内細菌が持久運動パフォーマンスに寄与することが証明された形だ。この研究成果は2023年1月、科学誌SCIENCE ADVANCESに掲載され、福田氏ら日本の研究成果が世界に示された。
「これにより、腸内細菌が長距離ランナーの持久力に寄与することが証明されました」と福田氏は語る。
腸内細菌叢を分析するための材料は、研究参加者から採取した便だった。便は通常、トイレで流されてしまう運命にあるが、福田氏はまったく違う捉え方をしている。
便の分析でさまざまな情報得られる
「今回の研究のように、排泄される便には腸内細菌叢の情報が含まれているので、便を分析することで、さまざまな情報を得られることが明らかになっています。だから、私は便にはとても価値があることから“茶色い宝石”と呼んでいます」
腸内細菌については「人間の体は約30兆個の細胞でできているが、腸内細菌はおよそ40兆個が棲息しており、その種類は1000種類くらいと見積もられています」と説明する。腸内細菌の集団を腸内細菌叢と呼ぶが、この腸内フローラにパフォーマンスを発揮してもらうには腸内フローラに適切なエサを届けること(=腸活)がとても重要。腸活を進めるためには食物繊維やオリゴ糖の摂取を意識した食事に変えていきたいものだ。そうすれば、青学の選手らのように持久力がつくかもしれない。