腸内細菌が短鎖脂肪酸をつくってくれる環境を
腸内細菌に着目した腸活はどのように進めたらいいのか。「健康維持や疾患予防、さらには持久力向上などの生理機能に寄与する短鎖脂肪酸を腸内細菌が作ってくれるように良好な腸内環境をつくる必要があります」
腸内環境研究の第一人者として知られる慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授でメタジェン代表取締役社長CEOの福田真嗣氏はこう語る。
短鎖脂肪酸によるさまざまな健康効果が内外の研究者によって報告されている。具体的には肥満抑制から、糖尿病に関連する耐糖能改善、アレルギー抑制、便通改善に至るまで多岐にわたる=イラスト。10~20年にわたる、腸内細菌の研究成果だという。
短鎖脂肪酸は肥満も抑制する
このうち、短鎖脂肪酸が肥満を抑制するメカニズムを見ていこう。
「腸内細菌叢(そう=腸内フローラ)が作った短鎖脂肪酸が腸から吸収されて血中に移行し、脂肪細胞のGPR43という受容体を介して、脂肪細胞への脂肪蓄積を抑制することが日本の研究者らによって報告されました」
短鎖脂肪酸は腸内細菌がつくる代表的な代謝物質である。「腸内細菌にエサ(未消化物)が届くと、短鎖脂肪酸という代謝物質が生み出される。代謝物質は血管に取り込まれ、全身へめぐり、その働きの1つがこの脂肪蓄積の抑制ということになります」
短鎖脂肪酸は肌荒れ予防にも期待
また、別の研究では、プロピオン酸(短鎖脂肪酸の一種)が腸管内分泌細胞に作用することで、GLP—1というホルモンの生成を促し、食欲を抑制するということが報告されている。GLP—1はインスリンを分泌して血糖値を下げたり、腸管からの糖分の吸収を抑えたりするほか、胃腸や脳に働きかけて満腹感を得たり、内臓脂肪の燃焼を促したりする働きがあるとされる。
このほか、短鎖脂肪酸の効果で肌荒れ予防が期待されるという。
「短鎖脂肪酸が血中に移行して肌の細胞に作用すると、肌のバリア機能が保たれ、結果として肌荒れしにくくなることが動物実験で報告されています」
脳の活性化や視力の維持も
さらに腸内細菌には、アンチエイジングの分野で脳の活性化や視力の維持にも効果が期待できる可能性が動物実験で示唆されているというのだ。
「加齢によって認知機能の低下が起きたり、視力も弱くなったりすることがありがちですが、これは炎症反応がかかわっているとされています。年をとったネズミに、若いネズミの腸内細菌叢を移植すると、その炎症反応が抑制されることが分かってきました。その逆もあって、若いネズミに年をとったネズミの腸内細菌叢を移植すると、脳や眼での炎症反応が促進されることも報告されています」生物学年齢を腸内細菌で巻き戻す
こうしたことから、「生物は生まれてからの時間的な年齢(暦年齢)は変わらないのですが、腸内細菌の活用によって身体の細胞や組織の状態に基づく年齢(生物学年齢)は巻き戻せるかもしれない」と福田氏は近未来を展望する。
腸内細菌に着目した腸活は食事によって改善が見込まれるため、安全性も高い。短鎖脂肪酸を増やすには、「オリゴ糖や食物繊維素材を摂取することです。食物繊維を多く含む食品には、穀類や海藻類、豆類、きのこ類、野菜類、果物類などがある。白米よりも玄米を、食パンならライ麦のパンがいいでしょう」と推奨する。