認知症 食品で認知症は予防できるか

食品で認知症は予防できるか(3)~「地中海食」を少しずつ取り入れる「足し算」食生活を

食品で認知症は予防できるか(3)~「地中海食」を少しずつ取り入れる「足し算」食生活を
予防・健康
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アルツハイマー発症率が下がる「地中海食」

脳の認知機能を守ると考えられる食材はいろいろあります。では、過去の世界的な研究で、寿命が延び、認知症のひとつアルツハイマー病の発症率も有意に下がるといわれた食事をご存じでしょうか。それは地中海食です。

地中海食はスペインやイタリア、北アフリカ、ギリシャなどの地域で長年食べられています。2010年に国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産にも登録され、健康に役立つ食事として知られています。

「地中海食ではオリーブオイルをふんだんに使用しています。私たちの研究では、北アフリカのチュニジア産のオリーブオイルには、ヨーロッパ産と比べてがんや動脈硬化を予防するポリフェノール成分が、10~30倍も含まれていることがわかりました」

こう話す筑波大学生命環境系の礒田博子教授は、過酷な環境で育つ北アフリカの植物の機能性成分について、長年、研究を行っています。

エクストラ・ヴァージン・オリーブオイルに抗炎症作用

「オリーブの実から絞られるフレッシュなエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルには、抗炎症作用を持つオレオカンタールという成分が含まれます。また、オリーブの葉の成分オレアセインに、同様の作用を持つこともわかりました」

オレオカンタールやオレアセインは、実や葉に含まれる苦みの成分。それが消炎鎮痛剤で市販薬でも使用されているイブプロフェンという成分と、似たような作用を持つそうです。

「古来より食されて健康的に役立つ食品は、科学的に研究を進めることで、どの成分にどのような機能性があるかがわかります。私たちは、地中海の食薬のデータベースを基に、いろいろな組み合わせの機能性食品を作っていきたいと思っています」

ちょっとした「足し算」で地中海食に近づける

たとえば、「地中海食は健康に役立つ」といわれても、和食中心だった人が急に地中海食に変えるのは難しいでしょう。毎食ごとに慣れない地中海食を食べるのもつらいでしょうね。そんな極端な食生活の見直しはしなくてもよく、自分の健康状態と食生活を照らし合わせるのが第一歩です。

地中海食でよく食べられている野菜が不足しているなら野菜を増やす、ヨーグルトやオリーブオイルを取り入れる、ちょっとした「足し算」による食事の見直しの参考に、地中海食を役立てるとよいそうです。

「食事の見直しは、生活習慣病の改善だけでなく、集中力を高めたい、持続力を養いたいなど、そのときの目的によって変わってくると思うのです」

現在の脳の機能向上も、地中海食などの健康に役立つ食品の食材が後押しをしてくれる可能性があります。

「何が不足して何を補えばよいのか。科学的な根拠に裏打ちされたデータを活用し、テーラーメード(個人個人に合った処方)の食生活改善のお手伝いができればと思っています」と礒田教授は話しています。

地中海食とは

植物性食品(果物、野菜、パン、その他の穀物製品、豆類、種実類)が豊富

  • オリーブオイルを用いる
  • チーズやヨーグルトを少量もしくは適量食べる
  • 卵の使用は週4回未満・赤身肉の使用は少量
  • 食事とともにワインを少量もしくは適量飲む

※厚労省の資料から

解説
筑波大学教授
礒田 博子
筑波大学生命環境系/地中海・北アフリカ研究センター教授。1985年、筑波大卒。1998年、博士(農学)取得。2007年から現職。産業技術総合研究所と筑波大学が2019年設立した「食薬資源工学オープンイノベーションラボラトリ(FoodMed-OIL)」のラボ長も兼任し、科学的な実証に基づき高機能性食薬としての素材の付加価値を生み出す研究を数多く行う。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。