健康長寿に関わる素材や環境を研究する筑波大
今年9月、コーヒー由来の成分「トリゴネリン」に、マウスの認知機能の改善効果の研究が発表されました。記憶をつかさどる脳の海馬(かいば)の神経が活性化し、ドーパミンなどの神経伝達物質を増やし、逆に、神経系に炎症を与える物質を制御することもわかりました。
この研究を行った筑波大学生命環境系の礒田博子教授は、伝承薬効食品を科学的に解明し、新たな有効性を見いだす研究を数多く手がけます。
「筑波大は、健康寿命に関わる素材や環境の開発研究を促進しています。私たちの研究技術は、食薬資源中の成分が持つ新たな機能を科学的に解明し、健康寿命に寄与する製品の基盤を後押ししています」
こう話す礒田教授の研究は、「トリゴネリン」にとどまらず、新たな機能性成分を次々と明らかにしています。
コーヒーから見つかったカフェオイルキナ酸がアミロイドβを減少
「コーヒーから見つかったカフェオイルキナ酸にも、脳の神経細胞を保護する作用があります。カフェオイルキナ酸は、サツマイモやプロポリスなど身近な食品に含まれています。私たちは、プロポリスのカフェオイルキナ酸で過去に研究発表しました」(礒田教授)
認知症のひとつであるアルツハイマー病は、脳にタンパク質の一種・アミロイドβがたまり、脳が萎縮していきます。礒田教授らの研究では、自然発生老化促進マウスにカフェオイルキナ酸を30日間投与したところ、神経細胞が活性化して新しい神経細胞が生まれ、アミロイドβの減少や消失などが明らかになりました。つまり、カフェオイルキナ酸は、アルツハイマー型認知症の改善・予防の働きが期待できるのです。
「プロポリスは、古代から活用されている伝承食薬のひとつです。その中に含まれる有効な成分を見いだし、自然発生老化マウスを用い、生物で効果を検証するのが私たちの仕事です」
プロポリスにも認知症予防の研究成果
プロポリスは、ミツバチが作る物質で巣に使用され、昔から抗菌作用や抗腫瘍作用、抗アレルギー作用など、さまざまな薬効が伝えられてきました。近年、科学的な検証が行われ、サプリメントなども普及しています。礒田教授らの研究結果を受け、他大学が人でのプロポリスの認知症予防の研究成果を挙げ、現在、プロポリスは注目の的になっています。
「未知の希少成分は、抽出して研究を行うときに膨大な費用がかかります。ですが、産業技術総合研究所の技術を用いると合成が可能です。その成分の機能性を研究することで、将来の認知症予防に寄与できると思っています」
礒田教授がラボ長を務める食薬資源工学オープンイノベーションラボラトリは、さまざまなテーマの研究を実施しています。近い将来、新たな機能性食品が注目されるかもしれません。
認知機能に関わる既存の機能性食品の一部
- イチョウ葉
- DHA、EPA(青魚など)
- ホスファチジルセリン(大豆)
- プラズマローゲン(鶏肉、ホタテなど)
- オーラプテン(ハッサクなど柑橘果皮)
- ラクトノナデカペプチド(発酵乳)
- クルクミン(ウコン)
- ルテイン、ゼアキサンチン(マリーゴールド)
- イミダゾールジペプチド(鶏むね肉、マグロなど回遊魚)
※消費者庁HPなどを基に作成。カッコ内は由来成分が含まれる食品