認知症 食品で認知症は予防できるか

食品で認知症は予防できるか(1)~コーヒー由来の成分に記憶の改善効果

食品で認知症は予防できるか(1)~コーヒー由来の成分に記憶の改善効果
予防・健康
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認知症予防の一助になる食品がわかった

国内では、65歳以上の5人に1人が認知症と推計されます。要介護認定の原因第1位も認知症です。今年9月には、新たな認知症治療薬「レケンビ点滴静注」(一般名・レカネマブ)が承認され、新薬に注目が集まりました。

しかし、日々の生活で認知症予防ができるなら、それに越したことはないでしょう。実は、認知症予防の一助となる食品がわかってきました。研究の第一人者、筑波大学生命環境系・礒田博子教授に教えてもらいます。

コーヒー由来の成分「トリゴネリン」に“改善効果”

まずは身近なコーヒーから。今年9月、礒田教授らとダイドードリンコの共同研究で、コーヒー由来の成分「トリゴネリン」に脳の空間学習や記憶の改善効果があることが明らかになりました。

空間学習というのは、たとえば、新しいビルや施設へ行くときに道順や景色などを記憶し、次に訪問するときにはスムーズに到着できるようなこと。年をとると、名称などの記憶があいまいになるだけでなく、空間学習の能力も低下し「道に迷う」といったことが起こりやすくなります。トリゴネリンには改善作用が期待できるのです。

「今回の研究では、自然発症老化促進モデルのマウスに30日間投与して空間学習能力を調べました。投与したマウスは、健康なマウスと同等の結果になり、投与していないマウスと比べて、有意な改善を示しました」

うつ病や全身の炎症を抑える効果も

こう話す礒田教授は、今回の研究でマウスの記憶をつかさどる脳の海馬(かいば)の神経細胞も検証。すると、トリゴネリンを投与したマウスの海馬は、神経細胞のエネルギーを生み出すミトコンドリアが活性化し、代謝が上がっていました。さらに神経伝達物質のドーパミンや、ノルアドレナリン、セロトニンが有意に増加。これらの神経伝達物質の低下は、認知症のみならずうつ病などにも関係します。トリゴネリンは、さまざまな可能性を秘めているのです。

「今回の研究では、神経に悪影響を及ぼす炎症物質(TNFα、IL—6)も有意に減少していました。糖尿病や肥満などのメタボリックシンドロームでも、炎症が起こります。トリゴネリンには、全身の炎症を抑える作用も期待できます」

トリゴネリン強化コーヒーを試作・研究

認知機能改善に加え、生活習慣病の改善などでも、トリゴネリンは後押しする可能性があります。現在、トリゴネリン強化コーヒーが試作され、人間における効果検証の研究が実施されているそうです。

「人間の健康は、食品、睡眠、運動に左右されます。毎日食べる食品によって身体は影響を受けています。よりよい効果が得られるように、私たちはさまざまな食品の成分の研究成果を挙げ、機能性食品の開発をサポートしています」

日常的に飲食するものを、より良いものに選択するだけで、脳の健康を守ることにつながります。商品開発などに生かされる日が近づいています。

「トリゴネリン」のマウスの認知機能改善効果

  • マウスの空間学習記憶能力を評価するモリス水迷路で、トリゴネリン投与群の成績は有意に向上
  • 記憶をつかさどるマウスの脳の海馬で神経系が発達し、エネルギー産生のミトコンドリアの機能やエネルギー合成が向上
  • 炎症に関わるネットワークを制御し、炎症性サイトカインTNFαやIL—6が減少
  • ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンといった神経伝達物質が増加した

(2023年9月21日公開のリリースから)

解説
筑波大学教授
礒田 博子
筑波大学生命環境系/地中海・北アフリカ研究センター教授。1985年、筑波大卒。1998年、博士(農学)取得。2007年から現職。産業技術総合研究所と筑波大学が2019年設立した「食薬資源工学オープンイノベーションラボラトリ(FoodMed-OIL)」のラボ長も兼任し、科学的な実証に基づき高機能性食薬としての素材の付加価値を生み出す研究を数多く行う。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。