抜群の免疫活性作用持つ「B1乳酸菌」発見の“立役者”は「カイコ」

抜群の免疫活性作用持つ「B1乳酸菌」発見の“立役者”は「カイコ」
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B1乳酸菌発見の立役者「カイコの検査法」とは

新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症に個人が対抗する手段として、「免疫力」が大いに注目されています。中でも脚光を浴びているのが「乳酸菌」。乳酸菌の研究は世界中で進められており、人間の健康に有益な主な乳酸菌はすでに発見され尽くされている状況ですが、そんななか新たな、しかも強力な免疫活性作用を持つ「B1乳酸菌」を発見したのが、帝京大学薬学部特任教授の関水和久先生です。

関水和久先生がキウイフルーツの皮に含まれる「B1乳酸菌」を発見した経緯には、先生が開発した「カイコの検査法」が大いに関係しています。関水先生に発見の経緯を伺いました。

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人間と同じ自然免疫に注目

「自然免疫の反応を評価するには動物実験が欠かせません。私自身は、もともと病原性を評価する研究を行っていたので、それに使用できる動物実験の生き物を探していました。一般的にはマウスを使った実験が行われていますが、多量のマウスを一度に使うことはできません。飼育も管理も大変で高コストです。さらに、動物愛護の観点から哺乳動物を使う実験には制限があります。もっと簡単に実験で使える生き物がないか探し、たどり着いたのがカイコの幼虫でした

カイコの幼虫は絹を作る養蚕業で家畜化された昆虫です。人間によって管理されないと生き延びることができず、においもなければ、餌やりも簡単、しかも安価で大量に仕入れることができます。ただし、病原性を評価する動物実験でカイコの幼虫を使った例はありませんでした。

「私の師匠である名取俊二先生(東大名誉教授)はセンチニクバエを使って、抗菌ペプチドを世界で初めて発見されました。昆虫は人間と同じ自然免疫を持っているのです。カイコの幼虫の自然免疫も人間とよく似ています。しかも、カイコの幼虫の反応は評価しやすい。健康食品や、感染症、糖尿病、免疫疾患、がんなどの病気の反応を見ることができます

こう話す関水先生のカイコの幼虫を使った評価法は、とてもシンプルです。たとえば、乳酸菌の評価では、カイコの幼虫に1種類の乳酸菌入りのエサを食べさせます。カイコの幼虫にとって乳酸菌は、外部から入ってきた侵入者になるため自然免疫が反応します。

免疫が活性するとカイコの幼虫の筋肉は麻痺して縮みます。カイコの血液に乳酸菌の死菌を注射して、よく縮んだ場合は、自然免疫の活性化が強いと判定できるというのが、関水先生が世界で初めて発見した「大発見」でした。新しい検査方法は、2008年に生化学の分野では一流とされる海外の科学誌に掲載され、世界的にも認められました。

免疫活性作用の強い乳酸菌の探求

関水先生は、「カイコ検査法」を用いて様々な研究を行っています。そのひとつとして、健康食品の評価に役立てようと考えたそうです。手始めに既存のヨーグルトに含まれる乳酸菌の免疫活性作用について調べました。そして、さらに免疫活性作用の強い乳酸菌を探すため、メーカーとの共同研究に着手しました。結果、見つかったのがキウイフルーツの皮に含まれる「B1乳酸菌」でした。

「2012年11月19日に、B1の名札のついたカイコの幼虫の検査で発見したことにちなみ、『11/19-B1乳酸菌』と名づけました。乳酸菌はいろいろありますが、乳酸菌によって作用が異なることを一般の方にもご理解いただければと思っています」


自然免疫の強力なサポーターとして期待されている「B1乳酸菌」の発見は、砂漠から1粒の宝の砂を見つけるほど大変な作業ですが、「カイコ検査法」によって関水先生は成し遂げました。この研究も評価され、その後、様々な研究に関水先生は着手しています。

2019年には、甘いショ糖を食べた後、血糖値の上昇を抑える腸球菌「YM0831」も「カイコ検査法」で発見されました。さらに現在、関水先生は多剤耐性菌に対する新たな抗生物質「ライソシンE」の研究にも尽力しています。

多剤耐性菌とは、複数の抗生物質に耐性を持つ細菌のことです。20世紀に最初に発見されて以来、数多くの抗生物質が誕生して細菌感染で活用されてきました。その結果、抗生物質が効かない耐性菌も生まれ、免疫機能が低下した人の命を奪う事態になっています。しかし、新たな抗生物質を探すのは至難の技といわれていました。関水先生は「カイコ検査法」で「ライソシンE」を見つけ出し、臨床応用へ向けた研究に着手しているのです。

「私は子供の頃から昆虫が好きで、カイコの幼虫で実験を続けていますが、できればカイコの幼虫も天寿を全うさせてあげたい。研究で自然免疫の評価をしていると、カイコの幼虫がサイトカインストームを起こして死んでしまうことがあるのです。カイコのサイトカインストームを治す方法を見つけることができれば、人間のサイトカインストームも治せると思っています

サイトカインストームは、たとえば体内にウイルスなどが入ってきたときに、免疫細胞からサイトカインという物質が多量に放出され、血管や肺などさまざまな臓器や組織に炎症の連鎖が起こり、ひどいときには命に関わる状態になることをいいます。新型コロナウイルス感染症でも、サイトカインストームで亡くなった人がいたのは、記憶に新しい話と思います。その克服に向けても関水先生は尽力しているのです。

関水和久(せきみず・かずひさ)

帝京大学薬学部寄付講座「カイコ創薬学」特任教授、東京大学名誉教授、ゲノム創薬研究所顧問、薬学博士。東京大学薬学部卒、同大大学院薬学系研究科博士課程修了。九州大学薬学部教授、東京大学大学院薬学系研究科教授、帝京大学医真菌研究センター教授などを経て現職。

執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。