生物は「食欲」と「性欲」に支配されている
人生においてわれわれを動かす最も強い動機は、なんと言っても食欲と性欲です。食欲と性欲は生物が永続するために、自己保存、種族保存の性質を各個体に欲望としてその神経系に託したものです。
非常に単純な生物であるヒル(線虫)や、皆が雨の日に緑の葉の上に観察するカタツムリなども、その生活の基本は食欲と性欲のみに支えられています。自己保存、種族保存の両機能を最初の生物が備えていなければ、この地球上で永続することはできなかったに違いありません。
現代のわれわれは極めて多くの欲望に支配されていますが、やはりその基本は食欲と性欲です。
日常生活は多忙を極めるという人も多く、常に交感神経系が緊張した状態になっています。中でも社会生活を上手くこなすためには人間関係の微妙なバランスが大切で、それがストレスの原因となっていることはよくあります。
小さいストレスを日々乗り切り、大きな課題を成功させるというのが誰にとっても成功への道ですが、小さいストレスを乗り越えるときに“食べ過ぎ”という罠がひそんでいます。日々の小さいストレスを乗り切る方法は、ヒトそれぞれが違うのですが、一般的に見られるのは、なにか食べる、特に甘いものを食べる、お酒を飲むというストレス解消です。
人は甘いものとアルコールの“報酬”に弱いが…
我々の身体は60兆個もの細胞で出来上がっていますが、それぞれの細胞が栄養素を受け取って栄養素を代謝してエネルギーを作り出して生きています。身体中に張り巡らされた毛細血管網を通って、血液が1個1個の細胞に栄養素と酸素を届けます。その栄養素を代謝するメインストリートがグルコース(ブドウ糖)です。
グルコースは糖質に分類され、皆さんが知っている砂糖はショ糖といって、ブドウ糖と果糖の2成分から出来上がっています。われわれのすべての細胞はこのグルコースを基本にして、エネルギーを作り出すためにこの砂糖が身体に入ると喜びがあふれてきます。疲れているときに甘いものを食べると元気が出るのもそのせいです。疲れている身体は、甘いものを欲していますので、ついケーキやお菓子があると手が伸びてしまうのです。
そして次がアルコールです。アルコールには神経を抑制する働きがあります。アルコールを飲み過ぎると寝てしまい、中毒になると動けなくなるのは、神経が麻痺してしまうせいです。少量から中程度のアルコールには精神安定剤と同じような作用があり、精神安定剤が持っている抗不安作用が働くだけでなく、食行動を直接刺激します。アルコールを飲むとつい食べ過ぎてしまうのはこのせいです。
われわれの脳は甘いものとアルコールによる多幸感を覚えてしまい、それは脳内にある報酬系を刺激し、もっとほしいという意欲を生み出してしまうドーパミンを過剰に作り出してしまいます。こうなると食べ過ぎという常習性が生まれてしまい、中年になって基礎代謝が低下すると肥満やメタボの原因となります。
この食べ過ぎを防ぐには、ストレスの原因を取り除くだけでなく、報酬系の快楽中枢が動き出しているということを自覚するだけで50%は抑制することができます。
我々の前頭葉には、ドーパミン回路だけでなく、欲望を強烈に抑制する回路も備わっています。その回路を発動させるためには、その身体の状況を強く認識、自覚するだけで十分です。