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デジタル・ヘルスケア最前線(4)~医師と看護師がデジタルで連携、足切断を防いだ!

デジタル・ヘルスケア最前線(4)~医師と看護師がデジタルで連携、足切断を防いだ!
予防・健康
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糖尿病から足切断の危機に…

下肢(かし)救済にだれよりも情熱を傾ける医師がいる。「富士 足・心臓血管クリニック」(静岡県富士市)で病院長を務める花田明香医師だ。下肢救済とは、足の潰瘍や壊死などの治りにくい病気に対して、足の切断を避けて歩行を可能にする治療のこと。原因となる疾患には糖尿病のほか、動脈疾患、静脈疾患、膠原病などがある。

篠原一彦さん(50代、仮名)は糖尿病を悪化させ、9年前に糖尿病性足壊疽(えそ)のため足趾(そくし=足の指)の一部を切断していた。

今度は足切断の危機が、篠原さんに襲いかかった。2022年夏、新型コロナに感染し、入院した病院で再発予防の装具を着用せずに過ごし、足の裏に皮膚潰瘍ができてしまった。篠原さんは同年9月に花田医師のクリニックを受診。同院は、重症患者がいれば、病院に紹介する役目(病診連携)を担っている。しかし、「入院先の病院を探しましたが、専門病院からはコロナ禍のため断られました」(花田医師)。

次に人工透析のクリニックに入院したが、病状はかえって悪化。花田医師は、篠原さんに抗生物質の点滴を行ったが、感染がどんどん拡大した。「ついには足底筋に膿(うみ)が溜まり、足底を大きく切開しなければならないほどになり、いつ敗血症から多臓器不全を起こして命を失ってもおかしくない状況に。再び、専門病院に受け入れを依頼しましたが、断られました」

花田医師も、「もう限界だ」と感じた。

やむを得ず、患者の命を守るために、花田医師は外来で鎮静をかけて足底を切開し、膿を出した。困り果てる中、ふと、「足ケアナビ」で連携している訪問看護ステーション「アポロ」を思い出した。足ケアナビでは、医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」(ジョイン)のチャット機能を使い、多施設・多診療科・多職種を結んでコミュニケーションができる仕組みになっている。

医療者間コミュニケーションアプリ「Join」

「アプリを使って、訪問看護ステーションに医療介入をお願いしました。入院が必要なほど重篤な足底潰瘍であるにもかかわらず、受け入れ先がないことを伝え、命を守るために何とか入院までつないでほしいと依頼しました」

受諾され、訪問看護ステーション、自宅付近の開業医、花田医師のクリニックとの連携が始まった。花田医師側からはチャットで足の写真、処置の手順、保険情報や連絡先、病歴や社会背景、今後の予定をシェアした。連携を受け入れた訪問看護師からは、全身状態、創部の状態、患者の気持ちや生活の場での様子がシェアされた=上写真

こうして2週間、治療を続け、入院先も決まった。「その頃には皮膚潰瘍の感染は治癒傾向にありました。専門病院に入院後、足の変形に対する再発予防手術も施行されて退院しました」(花田医師)

ぎりぎりのところで足の切断を免れた篠原さんは「ほら、俺、歩いてる!」と最高の笑顔を見せた。篠原さんは東海地方屈指の大繁盛・大衆食堂の店主だ。これまで通り、おいしいものを作り、お客さんを喜ばせたいという願いが奇跡的に実現した。

デジタル医療が進歩する中で登場したこのアプリ。花田医師や連携先の看護師らとの間では、おそらく世間のどのチャットよりも、真剣なやりとりがあったはずだ。チャットは医療連携を円滑にし、命と足を守った。

花田明香(はなだ・さやか)

2000年、山口大学医学部卒。2013年、東部病院(静岡県御殿場市)血管外科医長兼フットケアセンター長、2017年、新富士病院外科診療部長兼血管外科センター長などを歴任し、2021年、「富士 足・心臓血管クリニック」を開院し、病院長に就任。所属学会は、日本フットケア・足病医学会評議員など多数。

執筆者
医療ライター
佐々木 正志郎
医療ライター。大手新聞社で約30年間、取材活動に従事して2021年に独立。主な取材対象はがん、生活習慣病、メンタルヘルス、歯科。大学病院の医師から、かかりつけ医まで幅広い取材網を構築し、読者の病気を救う最新情報を発信している。医療系大学院修士課程修了。