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デジタル・ヘルスケア最前線(3)~睡眠時無呼吸症候群のオンライン診療、コロナ特例見直しで終了

デジタル・ヘルスケア最前線(3)~睡眠時無呼吸症候群のオンライン診療、コロナ特例見直しで終了
予防・健康
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離島の睡眠時無呼吸症候群患者をオンライン診療

長崎県五島は、NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」のロケ地にもなった風光明媚な島だ。

「五島から長崎港まではジェットフォイルを利用しても片道1時間半、病院受診も1日がかり。それがオンライン診療なら、交通費と時間的な負担はなくなります」

五島に住む40代の柳田栄一さん(仮名)は、進歩を遂げているオンライン診療の利点を話す。柳田さんは、いつも体が重く仕事もはかどらず、もしや重い病気かもしれないと不安になり、島から長崎市に渡り、井上病院を受診した。

同病院の院長で睡眠治療のエキスパートである吉嶺裕之医師は、柳田さんの体形や症状から睡眠時無呼吸症候群(SAS=サス)を疑った。

「1泊2日で入院し、終夜睡眠ポリグラフ(PSG)の結果、SASと診断がつきました」と吉嶺医師。

SASの治療方法には、CPAP(シーパップ)がある。就寝時に鼻マスクを装着して空気を送り、気道を広げる。柳田さんはCPAPによって劇的に症状が改善した。ただ、「体調が戻ったのはいいけれど、2、3カ月に1回、定期的に外来受診をするのが大変でした」(柳田さん)

コロナ禍で認められるようになったオンライン診療を吉嶺医師から紹介された。同院では、YaDocのオンライン診療のシステムを利用している。柳田さんは「通院負担が軽くなるならと、すぐにオンライン診療をお願いした。オンライン診療は予約制で、診療時間になったら医師から、呼び出しがある。主治医は前回受診時から今回の診察までのCPAPのデータを事前に把握して、治療のポイントもわかってくれています」という。

病院での待ち時間もなく、オンライン診療の支払いもクレジット決済。これも便利だ。「リモートでの診療であっても、しっかり吉嶺先生が診てくれているのでとても安心です」と柳田さん。

医師・病院にも大きな利点があったが…

医療側の利点もある。

「オンライン診療のメリットは、コロナ感染者の院内侵入を防げることです。オンライン診療ソフトのインストールなど診療前の準備に少々手間がかかりますが、デメリットはほとんどありません」と吉嶺医師。

また、CPAP機器に内蔵されたモデムを利用しサーバーにCPAP機器の稼働状況や無呼吸の程度が送られるため、医療機関側は患者が病院を受診しない期間も、CPAP治療の有効性や問題点を把握できるようになっている。

ただ、今年5月8日に新型コロナウイルス感染症が5類感染症に変更になったことに伴い、このオンライン診療に関する診療報酬上の臨時的な取り扱いが終了となった。CPAP患者へのオンライン診療は終了となり、再びコロナ前のように対面診療に戻さざるを得なくなった。デジタル医療の恩恵にあずかる人が増えているのに、制度上の決め事で不便な時代に逆戻りだ。

SASの治療の課題は、患者が自宅でCPAPを継続するかどうかにある。やめるとたちまち、改善していた症状が悪化する。柳田さんのオンライン診療は難しくなったが、これまでの治療でつかんだ習慣を生かして、「今後もしっかりとCPAPを使用していこうと思う」と話した。

吉嶺裕之(よしみね・ひろゆき)


 

1990年、長崎大学医学部卒。井上病院副院長を経て2019年、同病院院長に就任。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本呼吸器学会専門医、日本睡眠学会専門医。

 

執筆者
医療ライター
佐々木 正志郎
医療ライター。大手新聞社で約30年間、取材活動に従事して2021年に独立。主な取材対象はがん、生活習慣病、メンタルヘルス、歯科。大学病院の医師から、かかりつけ医まで幅広い取材網を構築し、読者の病気を救う最新情報を発信している。医療系大学院修士課程修了。