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デジタル・ヘルスケア最前線(1)~アプリで競争心を刺激し、ウオーキングを習慣化しましょう

デジタル・ヘルスケア最前線(1)~アプリで競争心を刺激し、ウオーキングを習慣化しましょう
予防・健康
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“近所”を歩いて「東海道五十三次ウオークラリー」

ヘルスケアの世界もスマートフォンのアプリやITが導入され、デジタル化が加速化している。従来の方法では不可能だったことが、アプリなどの助けを使えば、可能になってきている。医療や健康増進の取り組みを一新させるデジタル・ヘルスケアの最前線を紹介する。

生活習慣病の改善の方法として、医師の多くは「1つ手前の駅で降りて歩くといい」とアドバイスする。とはいえ、「ウオーキングが健康に良いことはみなが知っていますが、歩くという地味な運動を1人で長く続けるのは難しい。ましてや疲れて帰宅する途次などに余分に歩くのは至難の業です」と、澤ヘルスデザイン研究所の澤律子所長は現状を説明する。

そこで最新技術の出番だ。アプリの力を借りれば、歩くきっかけになる。6月に行われた「東海道五十三次ウオークラリー」=上写真=もその1つ。アプリ上で東海道五十三次を設定し、スマートフォンから参加。企業や団体などで5人以上のチームをつくり1日、8000歩を目標に、約1カ月かけて日本橋から京都を目指した(現在は終了)。実際にウオーキングをするのは参加者のそれぞれの場所だ。

このイベントの特徴の1つは、競争心を煽ること。企業ぐるみで参加すれば、アプリ上で同業他社の進捗状況が分かり、競争心がかき立てられる仕組みになっていた。

「イベントに参加する企業の方は、アプリの中で他社が東海道のどこまで達したか、見ることができます。宿場ごとにチェックポイントをつくり、A社は箱根宿にもう着いたとか、他社の途中経過の把握もできます。それが刺激になって、うちの会社ももっと歩こうとがんばることにつながります」

こう語るのは、イベントを企画したヘルスケアサービス「グッピーズ」(東京)の広報担当者。

ずるい人は、アプリに歩数を上乗せすれば…と考えるかもしれないが、「弊社のアプリでは、歩数を手入力することはできません。参加者各自のスマホにイベントのコードを入れて設定しないと、イベントの歩数はカウントできないようになっています」という。

同イベントの参加企業は約500社、参加人数も1万人を超える大規模なイベントだ。3位以内の企業にはトロフィー、参加者には賞状も授与された。これも励みになったようだ。

通常時のアプリ画面。円グラフ(左上)の健康活動に応じてアマゾン・ギフトカードや現金がもらえる仕組み(グッピーズの資料を基に作成)

体重を3キロ減らせれば生活習慣病が改善

こうしたイベント以外でも、同社のヘルスケアアプリは“活躍”している。同社では企業、健保連、自治体とアプリ使用の契約。契約した企業などはアプリを活用してそれぞれの組織内で健康活動を行っている。インセンティブ(行動を促す刺激)として、健康活動に応じてアマゾンギフトカードや現金がもらえる特典があるのだ。「3カ月、がんばって歩いたり、健康活動を行ったりして健康ポイントが1万点たまったという話はわりとあります」と同社。

体重を3キロ減らせれば、糖尿病や高血圧症といった生活習慣病が改善されるという報告が多数寄せられている。ヘルスケアやウオーキングのアプリは、スマホに自動で入っているものや、ドコモや楽天などが手掛けるものがあり多彩だ。

「新型コロナ対策に伴い、外出の機会が激減し、運動不足などにより健診で異常値が数多く出ています。ひざなどに痛みがなければ、歩くことは最適な改善法です。行動変容には自分が楽しめるアプリを利用するのも有効かと思います」と澤所長は話す。

澤律子(さわ・りつこ)

労働衛生コンサルタント・実務家教員。1985年、東京医科歯科大学医学部附属臨床検査技師学校卒。日本予防医学協会執行役員などを経て2019年。澤ヘルスデザイン研究所を設立。2021年、先端教育機構社会情報大学院大学実務家教員養成課程修了。埼玉医科大学非常勤講師。今春、東京医科歯科大学大学院修士課程に入学。

執筆者
医療ライター
佐々木 正志郎
医療ライター。大手新聞社で約30年間、取材活動に従事して2021年に独立。主な取材対象はがん、生活習慣病、メンタルヘルス、歯科。大学病院の医師から、かかりつけ医まで幅広い取材網を構築し、読者の病気を救う最新情報を発信している。医療系大学院修士課程修了。