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不安や悩みから自分を守るヒント(3)~大災害にも負けないレジリエンスの高め方

不安や悩みから自分を守るヒント(3)~大災害にも負けないレジリエンスの高め方
病気・治療
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大災害の時こそ個人のレジリエンスが重要

ストレスを克服するためのレジリエンス(精神的回復力)は、大災害でも求められる。

東京医療保健大学医療保健学部の廣島麻揚教授が、レジリエンスに注目したきっかけは2011年の東日本大震災だった。現地を訪れ、被災者の健康診断の一環として、「レジリエンスが高いのは、どんな人か?」を調査した結果、「日頃から趣味や地域の活動をしている人たちに多い」ことが分かったという。

苦境に耐えながらも、気分転換する術を持っているか否かで、メンタルヘルスに大きく影響する。このため、被災者には、散歩や軽い運動など少しでもできそうなことから気分転換を提案した。また、声かけや、ゆっくり話を聞くなど、それぞれの置かれた状況を見極めながら現地の保健師たちと協力して支援を続けたそうだ。

廣島教授が振り返る。「大規模な災害時には、レジリエンスを高めるために重要な家族や友人など信頼関係にある人とのつながりが絶たれてしまう場合があります。そのような時こそ、支援者が必要です。被災者が困難に向きあう状況を受け止め、立ち向かうための力を後押するサポートが大切なのです」

被災者のレジリエンスを高める支援のポイントは、「一過性の支援ではなく継続」にある。被災者自身がレジリエンスを身につけ対処できる力を持つことは、大きな成果になる、と廣島教授は分析する。

大災害のストレスを乗り越える方法とは

大災害をはじめ、強いストレスにさらされたとき、乗り越える力をつけるには、①日頃から自分を客観的に分析し、弱い部分を鍛える意識を持つこと②自分の強みに目を向けること③気分転換する術を持っていること。さらに、④家族、友人、近隣住民など周囲の人と信頼関係を築き、何かあったときに支援してくれる安心できる存在がいること—だという。

今後、南海トラフ巨大地震や異常気象など日本をとりまく環境は楽観視できない。何があっても少しでも健やかに過ごすため、この4つのポイントを押さえて「防災レジリエンス」に取り組む価値はありそうだ。

一方で、廣島教授は被災地支援における支援側の保健師や看護師の過酷な状況に、日ごろからストレスケアの必要性も痛感したという。

実際、憧れて看護師になった学生が働き出すと、現実の過酷さにショックを受け、辞めてしまうケースも多い。最近では、新人に向けたレジリエンス研修を実施する病院も多くなっている。

レジリエンスのチェックシートで自分を客観視すると、弱い面や悪い面だけでなく、自分の良さにも気づく。「セルフ・コンパッション」(自分のことを大事にしようという考え方)も磨かれるのだ。

また、身の回りの支援者の存在に改めて気づき、感謝することでもレジリエンスは高まる。お世話になった人に手紙を書いたり、自分の宝物をみんなで共有し合うことも効果的だ。

ところで、上司が新人社員のレジリエンスを高めるには、どう接したら良いのだろうか。

「コロナ禍でのリモートワークでは、画面越しで“察する”ことが、より困難だったと思います。ようやく顔を合わせられる状況になってきたのは幸いです。新人への声かけや雑談も大事ですし、その際、表情や顔色、身なりなどを観察しておくことも重要です」と廣島教授はアドバイスする。
 

廣島麻揚(ひろしま・まよ)

東京医療保健大学医療保健学部看護学科教授。博士(保健学)。東京大学医学部、東京大学大学院医学系研究科博士課程、京都大学大学院医学研究科准教授などを経て現職。専門は、精神障がい者の社会参加をはじめ、医療事故防止、高齢者に対する精神看護学など幅広い。精神神経学会、看護管理学会、自殺予防学会、精神障害者リハビリテーション学会ほか多くの学会に所属する気鋭の研究者。  

執筆者
医療ライター
熊本 美加
東京生まれ、札幌育ち。医療ライター。性の健康カウンセラー。男性医学の父・熊本悦明の二女。大学卒業後、広告制作会社を経てフリーライターに。男女更年期、性感染症予防と啓発、性の健康についての記事を主に執筆。2019年、52歳のとき、東京・山手線の車内で心肺停止となり、救急搬送され蘇り体験をする。以来、救命救急、高次脳機能障害、リハビリについても情報発信中。著書『山手線で心配停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』(講談社)。