自分の思考の傾向からレジリエンスを分析
避けては通れないストレスを乗り越える術としてレジリエンス(精神的回復力)が国内外で注目されている。英国など子供の頃からレジリエンス教育が行なわれている国もある。その狙いは、自己肯定感や楽観性、問題解決能力、自己コントロール力、自己効力感など、肯定的な“心理資源”を育て、危機が襲ってきたときに備えて、問題解決できる適応能力を鍛えておくことだ。
米国では日常的にストレス状況にさらされやすい消防士や救急医療従事者、陸軍などで、心身の健康を保つためレジリエンス訓練が行われている。強いストレスゆえのうつ病、不安障害、アルコール依存、ギャンブル依存、PTSDなどへのリスク回避を目指す。
日本でも徐々に導入されている。東京医療保健大学医療保健学部の廣島麻揚教授が所属する精神看護学領域の講義では、看護師を目指す学生たちにレジリエンスについて話しているという。
レジリエンス教育で活用できるのが、お茶の水女子大の平野真理准教授が開発した「二次元レジリエンス要因尺度」。個人の持つレジリエンス要因を、持って生まれた気質の資質的レジリエンス要因と、発達の中で身につけやすい獲得的レジリエンス要因に分けてとらえる。まじめに答えてみると、自分の思考の傾向が驚くほど見えてくるという。
「点数が高ければいいのではなくバランスが重要です。ご家族でやってみると、『お母さんはここが強いけど、ここが弱いね』といった気づきがあり、お互いの弱みを補い、強みを生かしあうことができます」と、廣島教授。
自分で意識して高めることが可能
これを活用すれば、自分の思考を、「感情」と「事実」に分けることもレジリエンス力を高める。
たとえば、「なんでも自分のせいにしてしまう」といった思考の癖を自覚するだけで、そうならないよう自分でコントロールする意識が芽生えるのだという。同じ出来事でも、自分の考え方しだいで解釈を変えることができるのだ。
『子どもの逆境に負けない力「レジリエンス」を育てる本』(法研、足立啓美・鈴木水季著)の中では、日本でレジリエンスに関する教育を受けた学生たちのレジリエンスのイメージが紹介されている。〈花が枯れても水をあげれば、また咲いてくれる〉〈雨の後に虹がでるように、悲しいことがあっても必ずいいことがある〉〈ブランコのように感情は揺れ動くが、自分で漕ごうと努力すれば高いところにいける〉といったポジティブなものである。
廣島教授は言う。「ストレスで落ち込んだところから立ち上がる力がレジリエンスです。回復がちょっとずつの人や、少し進んで少し後退する人など個人差がありますが、最終的には落ち込む前を上回るレジリエンスが身に付いていきます」
レジリエンスは誰にも潜在的に備わっているので、自分で意識して発達させることが可能だ。さらに周りの人の働きかけがあれば、より伸ばすことができるという。
「家族はもちろん家族以外の社会とのつながり、信頼・安心できる支援関係は、レジリエンスを高めます。危機的な状況で、つらく落ち込んでいるときは、なかなか自分の強みを発揮できません。そんな時にこそ、身近な家族や友人の思いやりのある声かけや、話をしっかりと聞いて受けとめてもらうことは、立ち上がるための大きな力になります」(廣島教授)
雨風にさらされている人に、そっと傘を差し出す。それがレジリエンスの強化につながることを覚えておいてほしい。
廣島麻揚(ひろしま・まよ)
東京医療保健大学医療保健学部看護学科教授。博士(保健学)。東京大学医学部、東京大学大学院医学系研究科博士課程、京都大学大学院医学研究科准教授などを経て現職。専門は、精神障がい者の社会参加をはじめ、医療事故防止、高齢者に対する精神看護学など幅広い。精神神経学会、看護管理学会、自殺予防学会、精神障害者リハビリテーション学会ほか多くの学会に所属する気鋭の研究者。