ストレスで「心肺停止」も
2023年も半分が過ぎようとしている。楽しい夏を前に「体調が悪い」「やる気が出ない」と五月病をずるずる引きずっている人はいないだろうか。
厚生労働省の労働安全衛生調査(2021年)によれば、仕事や職業生活に関する強いストレスを感じている労働者の割合は53.3%。年齢別では30~39歳の59.5%がトップで、ストレスの内容は、仕事量43.2%、仕事の質33.6%、対人関係(パワハラ・セクハラを含む)25.7%、役割・地位の変化等(昇進・昇格、配置転換等)17.9%となっている。職場だけなく、家庭、学校など、常にストレスにさらされているのがわれわれ現代人なのだ。
たかがストレスと舐めてはいけない。ストレスはさまざまな病気の引き金となる。自律神経失調症、うつ病、適応障害、過敏性腸症候群、突発性難聴など、数えればきりがない。さらに中高年となれば、「仕事の重圧」「両親の介護」など、ストレスの強度が増す。それと逆行して、若い頃より体も脳もストレスに脆弱になっている。性ホルモン低下が火に油を注ぐ。
なんでもかんでもストレスのせいにするのもどうかと思うが、私(筆者=熊本)自身が最愛の母のがん闘病と葬儀にまつわる、親族との軋轢(あつれき)ストレスが遠因となり、心肺停止に陥ってしまった経験がある。
一方で、ストレスを抱えながらも、健やかに過ごしている人が多数存在する。そういう人たちは何が違うのか? ストレスに備える策を探っていこう。
ストレスに対抗する「レジリエンス」とは
最近、耳にする「レジリエンス」という言葉はご存じだろうか?
アメリカ心理学会の定義によれば、「逆境やトラウマ、さらには重大なストレス源に直面したときに上手に適応するプロセス」のことで、もともとは“ストレス”に対比される言葉だ。
コロナ禍であっても活力を保った人の特徴をロックダウン後に調査した同国の報告がある。それによると、日頃からより頻繁に外出し、よりよく眠り、運動し、家族や友人、恋人からの社会的サポートを受けていると感じていて、いつも神に祈っている傾向のある人たちはレジリエンスが高かった。
「レジリエンスの高い人は、たとえばONE PIECE(ワンピース)のルフィ。サザエさんのカツオ。ちびまる子ちゃんの花輪クン。どことなく共通点がイメージできますか? 逆境にあっても、柳の枝のようにしなやかに揺れながら、柔軟に対応しています」
アニメのキャラにたとえてわかりやすく解説するのは、東京医療保健大学医療保健学部看護学科の廣島麻揚教授。
「もともとポジティブな性格や、特別な能力を持っている自分とは違うタイプの人に思うかもしれませんが、そうではありません。レジリエンスはメンタル・マッスル(精神的筋力)とも呼ばれていて、誰しもが鍛えることができます」
廣島教授のこの言葉は、心強い。
どんなに太い幹であってもカチンコチンに硬ければ強い風でポキンと折れる恐れがある。海外では子どもの抑うつやいじめ、虐待被害によるPTSDの打開策としての児童・生徒へのレジリエンス教育が積極的に取り入れられている。
廣島麻揚(ひろしま・まよ)
東京医療保健大学医療保健学部看護学科教授。博士(保健学)。東京大学医学部、東京大学大学院医学系研究科博士課程、京都大学大学院医学研究科准教授などを経て現職。専門は、精神障がい者の社会参加をはじめ、医療事故防止、高齢者に対する精神看護学など幅広い。精神神経学会、看護管理学会、自殺予防学会、精神障害者リハビリテーション学会ほか多くの学会に所属する気鋭の研究者。