ビタミンDが、がん細胞内でブレーキかける
国内では2人に1人ががんと診断される時代。治療や薬の進歩は目覚ましいが、がんで年間38万人以上が亡くなり、5年生存率が約6割にとどまる(国立がん研究センター「がん統計」より)のも事実。こうした事態をビタミンDが変える可能性がある。
今年3月、ビタミンDのサプリメントを毎日とっていると、がん死亡率を下げることが、海外の科学誌に掲載された国際共同研究の論文で明らかにされた。研究責任者の東京慈恵会医科大学分子疫学研究部の浦島充佳教授は、次のように話す。
「がん細胞を体内で排除する自然免疫を強化すると同時に、ビタミンDががん細胞内に入り込んで、増殖のブレーキを踏む可能性があると考えています。がん細胞の増殖を抑えられれば、死亡率のみならず再発率の低減につながります」
がん細胞は無限ともいうべき勢いで増殖し、細胞の一部をリンパ液や血液に乗せて、別の臓器や組織に転移する。それに関わるのが、がん抑制遺伝子p53の変異といわれている。正常なp53は、正常な細胞ががん化するなど不具合が生じるか、寿命に達した場合に、細胞を自然死(アポトーシス)に導く働きがある。不要な細胞を排除して新しい細胞に置き換えるため、p53は重要な役割を担っているのだ。この遺伝子が機能不全となり、変異した形のがん細胞になると、不死となって無限に増殖し続ける。
がん抑制蛋白の変異をビタミンDが抑制する可能性
「がん組織の30~40%で、がん抑制蛋白(たんぱく)と呼ばれるp53が変異しています。p53変異は再発率や死亡率が高い。私たちは『アマテラス2試験』の研究で、p53変異を持つがん患者さんに対するビタミンDの効果を検証しているところです」
進歩し続けるがん治療では、遺伝子変異に応じた効果の高い薬の開発が行われている。しかし、変異したp53遺伝子に対して、医薬品でターゲットにするのは容易なことではない。正常な細胞のp53にも悪影響を及ぼしかねないからだ。それを解決する可能性を秘めているのが、ビタミンDなのだ。
「p53変異があると、がんは再発しやすいのですが、ビタミンDによって再発を抑制する可能性があります。ビタミンDに本当に効果があるのか、現在、研究を進めているところです」
ちなみに浦島教授らの研究で内服しているビタミンDサプリメントの量は、1日2000IU(マイクログラム換算で50μg)。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の1日のビタミンDの基準値の目安は、18歳以上で1日8.5μg、上限は100μgなので、1日25~50μgは基準範囲内となる。
「私たちが長期的に行っている研究でも、ハーバード大学が実施した2万5000人を対象としたバイタル試験でも、今のところは安全性に問題は生じていません。健康な人も、すでにがんと診断されている人にも、役立つと考えられます。それを科学的に証明したいと思っています」と浦島教授は展望する。
アマテラス2試験とは
浦島充佳教授らが2022年にスタートした多施設共同研究。p53陽性(
がんに特異的な遺伝子変異を示すタンパク質の検査で陽性の意味)のがん患者に、手術から2カ月以内に、ビタミンDサプリメント(2000IU/日)を連日投与する群と、プラセボを投与する群をランダムに振り分けて実施 。投与開始から1年以降の再発、すべての死亡ハザード・リスクを比較し、ビタミンDサプリメント投与の有効性と安全性の検討を行う。