介護は「分担」が大事
静岡で1人暮らしの母が自宅で倒れ、大腿骨4カ所を骨折で救急搬送先の病院で手術を受けた。約2週間後、リハビリ病院に転院し、退院後の生活を再び自宅で送ることに決めた。
リハビリ病院では、在宅復帰に向けて退院前に理学療法士らが患者を連れて自宅を訪問して家屋調査を行う。生活の場となる屋内外の設備の危険な点を指摘し、改善点を提案するためだ。実家はトイレの便座が低いため補助便座を使って高くすること、廊下と寝室に設置してある手すりを増設すること、廊下に夜間でも足下が見えるようライトを取り付けること—など細やかなアドバイスを受け、こう指導された。
「この年齢で大腿骨を4カ所骨折したにもかかわらず、自宅に戻れるほど回復できたのはすごいですよ。ただ、しばらくは誰かがが一緒に暮らして様子を見てください」
東京在住の私は、1~2カ月間実家で母の世話をしつつ、静岡から東京へ勤務することになった。私のように遠距離介護をせざるを得ない人が増える中、介護と向き合うには、何に気を配ったらいいのだろうか。
かかりつけ医として長年在宅患者と向き合ってきた、静岡県三島市医師会長の吉冨雄治医師は「介護は家族が全部背負おうとしないことですね。すべてをやろうとするとつぶれてしまいます。入院先の病院から帰宅する場合、生活範囲内で本人ができること、できないことをわけておくことが必要。おもだった親戚にどこまでの介護をするかを伝えておくこともいいですね」と話す。
母が自宅に戻る前に、廊下の突っ張り棒をより使いやすいものに取り換え、屋外で使う歩行器とは別に、家の中で使う少し小さめサイズも新たに購入した。その上で、できるだけリスクを回避するため、母が1日中ひとりきりでいる状態がないように1週間のスケジュールを組んだ。
入院前よりホームヘルパーやデイサービスの利用回数を増やし、新たに訪問リハビリやショートステイも申し込んだ。週3回ホームヘルパーに買い物と掃除と服用する薬のセッティングを依頼、デイサービスは週3回、訪問リハビリは週2回、月1回は2泊3日か3泊4日でショートステイを利用するようにした。
要介護の人を病院に預けられる「レスパイト入院」
母は入院中に要介護4に認定された。退院後、かなり回復していたが、次の認定見直しまでこの介護度だ。利用料金は、介護保険サービス内で1割負担で、おおよそ1カ月あたり、ヘルパー利用料2600円、デイサービス代1万7000円、訪問リハビリ代4600円、ショートステイ代3泊4日1万6000円である。このほか、ベッドやマットレス、廊下や室内の手すりやポール、段差を解消するスロープなどはレンタルで、月約3000円かかる。
医療的ケアが必要な人の在宅介護についても、吉冨医師は「在宅看護やヘルパーなどのほか、“レスパイト入院”を利用するのもいいでしょう。家族が親戚の葬儀に出席や旅行などの場合に預けることができます。医療保険適用で期間は2週間までです」と助言する。
レスパイト入院とは在宅療養で医療的ケアが必要なため、ショートステイの利用が困難な人向けのものだが、介護認定者も利用できる。ショートステイは基本的には介護認定を受けている人が対象のサービスだ。
ショートステイもデイサービスもとてもありがたい介護保険サービスだが、なぜかデイサービスやショートステイ中に提供される食事は介護保険の適用外で、全額自己負担となる。年金生活者にとっては小さくない問題だ。介護保険適用か適用外かという線引きは複雑なのだ。
吉冨雄治(よしとみ・ゆうじ)
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静岡県三島市医師会会長。1963年福岡県生まれ。長崎大学医学部卒業。長崎大学医学部附属病院内科、国立循環器病センター、国立東静病院循環器科医長を経て、2022年から三島市医師会会長。宮内まこと記念クリニック院長。