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遠距離介護体験記(3)~リハビリ入院で役立ったAIスピーカー

遠距離介護体験記(3)~リハビリ入院で役立ったAIスピーカー
コラム・体験記
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医師からの質問「どこまでの回復を目指したいですか?」

転倒から大腿骨を骨折して、急性期病院に救急搬送され手術した1人暮らしの母。地元の静岡で近くの回復期リハビリ病院に転院したその日、母の病室で担当医師からいきなり「どこまでの回復を目指したいのですか」と聞かれた。

一瞬、母の脚の現状も詳しく分からないのに…と戸惑ったが、母に代わって、私が「骨折する前と同じ程度、歩行器を押しながらも自力で歩ける状態を目指したい」と答えた。ベッドの母もうなずいていた。リハビリでは受け身でいるより、「自分はこうなりたい」という意志が本人にも、家族にも大事なのだと言われているようだった。

回復期病院では、1人の患者に対し、担当医師、看護師、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカー、管理栄養士からなるチームが結成され、リハビリのトレーニングに臨む。母のベッドの横にもチームが勢ぞろい。一人一人から自己紹介を受けた。たった1人の患者のために、こんなに大勢がチームを組んでくれるのかと感動し、明るい気持ちを持つことができた。

こうしてリハビリ病院での生活が始まったが、以後、コロナ禍で一切母に面会することは叶わなかった。荷物や洗濯物なども受付に預けた。東京に暮らす私は頻繁に来院することはできないため、パジャマやタオル、消耗品などは1日あたり約700円でレンタルできる日額制のアメニティセットを申し込み、紙おむつはネット購入で、病院に届くようにした。

長期入院にあたり、骨折の回復力の次に心配だったのは、母が入院中に認知症になりはしないかということだった。

緑内障が進んでいた母は視力がかなり衰えており、家でも雑誌など読まなくなり、テレビもぼやけてよく見えないからと音だけ聞いていた。その上、携帯電話も持っていない。これではリハビリの時間以外はベッドで寝たきりになってしまう。ボケることが確実だ。

「アレクサ」を病室に持ち込んだ!

そこで、実家で使っていたAI音声認識サービス搭載の画面付きスマートスピーカーを病室に持ち込むことを考えた。初めは「前例がない」と断られたが交渉した。設置は、Wi-Fiとスピーカーのコンセントを差し込むだけで、「スタッフには手間を取らせません」と訴えた。家電の操作すら満足にできない母でもデバイスにいっさい手を触れず、声だけで操作でき、家族と相互に会話ができる効用などを説明して許可をいただいた。

おかげで、入院中は毎日、母と家族、ときには親戚も交えての会話が、母の励みになった。AI機器は、実は操作が苦手な高齢者のためのものでもある。介護医療の現場に、もっと普及してほしいと感じている。

月に一度、担当医師から家族へ回復の経過説明があるときだけは、母に直接会えた。リハビリの進行状況のほか、認知症検査の結果も分かった。30点満点で23点以下は認知症のおそれありだが、母は入院時が27点で、退院間近には何回も満点を出していた。医師は「普通は入院すると、だんだん点数が下がってくるものです…」と驚き、褒められた。

リハビリも順調で、3カ月目に入るころ、こう聞かれた。「退院後は、施設ではなく自宅での生活に戻ることができそうです。年齢も考えると自宅で暮らせる最後のチャンスだと思いますよ。どうしますか」

自宅か施設か、悩んだ末、母の気持ちをくんで自宅を選択。遠距離介護の私も覚悟を決めた。

執筆者
医療ジャーナリスト
宇山 公子
静岡県出身。会社員、新聞記者を経てフリーライターに。介護、健康、医療、郷土料理、書評など執筆。日本医学ジャーナリスト協会会員。