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遠距離介護体験記(2)~救急車で搬送された病院には2週間しかいられない

遠距離介護体験記(2)~救急車で搬送された病院には2週間しかいられない
コラム・体験記
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病院には2週間しかいられない!?

静岡県の実家で1人暮らしの母が夜間に自宅で転び、翌朝、救急車で搬送された。大腿骨を4カ所骨折。手術をして人工骨頭を入れることになったのだが、週末の搬送だったため、手術日は翌週になった。

東京から駆けつけた私は、長期入院を覚悟した。だが、ソーシャルワーカーから「この病院は2週間ほどで退院し、他に転院しなければなりません。おおよその退院予定日を決めてください」と言われ仰天した。

私は、〈まだ手術もしていないし、術後どれくらいで歩けるかも全く分からない。そんな状況で、どうやって退院日を決めたらいいの?〉と、不安に駆られた。

これが国の医療制度の現実である。膨大に膨らむ医療費を抑えるための狙いがある。通常、救急車で搬送されるのは、「急性期病院」であり、大けがや重篤な病気を抱えた患者の症状が安定するまで集中的に治療を行う医療機関であって長期の入院はできない。

急性期病院では入院が14日を超えると診療報酬が大きく下がり、病院の収入が減ってしまうため、経過が順調な患者はなるべく14日間で退院させたいのだ。また、急性期病院は常に新たな患者を受け入れるためのベッドを空けておく必要もある。そのため術後の回復が順調なら、約14日間で退院や次のステップである「回復期病院」への転院が勧められる。

それにしても東京から駆けつけたばかりで、退院や転院先のことなど全く頭になかったため、一時は気が動転してしまった。ソーシャルワーカーは、候補となる病院をいくつか提示してくれた。転院先がリハビリを目的とする場合は、回復期の病院(病棟)か地域包括ケア病院(病棟)、あるいは介護老人保健施設(老健)となる。

急性期病院からの転院先は…?

回復期病院では入院できる対象疾患は決まっており、脳血管疾患、大腿骨・骨盤の骨折などの急性期治療後の患者に集中リハビリを行う。入院期間は疾患によって違うが最長180日である。一方、地域包括ケア病院では回復期病院の対象疾患ではない患者でも入院でき、在宅療養中に悪化した患者も受け入れている。こちらは最長で60日となっている。

介護老人保健施設は、介護保険の被保険者で市町村の要介護認定を受けている人が利用でき、入居期間は原則3カ月だ。3カ月ごとに審査が入り回復したと判断されると退去となる。これら回復期の病院で元の生活に戻れるほどの回復が見られないときは、さらに慢性期の「療養型病院」へと転院となる。

母は大腿骨骨折で、リハビリ病院での入院期間は3カ月という長期となる見込みだったため、家族が通いやすい場所にある病院が望ましかった。地方の場合、たいてい大きな病院は駅から遠い。地元の人間は1人1台、車を所有し、仕事もプライベートも全て車で移動するのが一般的だ。私は免許を持っていなかったが東京では不便を感じたことはなかった。

こうした事情もあって母の転院先は駅近か、実家に近いところを探してもらった。幸い、実家から徒歩約15分のリハビリテーション病棟がある総合病院に入院できることになった。

母は結局、急性期病院を手術後13日で退院し、そのまま転院した。まだ自力歩行はできないので、車いすのまま介護タクシーのお世話になった。はたして、これから3カ月間で、以前のように歩行器を押しながらでも、ゆっくりでも自分の足で歩けるようになるのだろうか。この先どうなるのかという思いがよぎった。

執筆者
医療ジャーナリスト
宇山 公子
静岡県出身。会社員、新聞記者を経てフリーライターに。介護、健康、医療、郷土料理、書評など執筆。日本医学ジャーナリスト協会会員。