高齢社会の進展と切っても切り離せない「認知症」。誰もが恐怖に思うこの問題を、マンガで、ほのぼのと解説する1冊が話題だ。認知症治療の専門家と、芸人・俳優・マンガ家の顔を持つ人気者がタッグを組んで世に送り出す、「ぼけ」との正しい付き合い方を紹介する。
お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎は、舞台やドラマでの俳優活動にも力を入れるマルチ芸人。マンガ家としての才能も発揮する矢部にとって、初めての全編描き下ろしのマンガ単行本となるのが、『マンガ ぼけ日和』(かんき出版刊、1100円)だ。
認知症専門医の長谷川嘉哉氏の同名の著書を原案としてマンガ化した本作は、認知症の進行状況を四季に分け、季節ごとの患者に起き得る変化をほのぼのとしたタッチで解説。介護する家族に役立つ知識を、笑いながら、安心して身に付けられる本に仕上げている。
認知症の高齢者を持つ家族や家庭は、介護の疲労でどうしてもギスギスしがちだ。「叱ってはいけない」という意識ばかりが強くなると、うっかり強い物言いをしてしまった自分を責めて、お互いにとって好ましくない状況をつくりがちだ。
そうしたことを未然に防ぐ方策と、もし関係性が悪くなりそうなときの対処法や心の持ち方を、具体的な事例をもとに解説していく。
この本に通底するのは「温かいまなざし」であり、ありのままの姿を受け入れることで、認知症の日常を「平凡な日々」に変えていく術(すべ)を示している。
矢部は、「原案となった長谷川先生の本は温かくユーモアを交えて、老い、老化、認知症、そして誰にでも訪れる“死”を当たり前のことだと教えてくれて、安心を与えてくれます」と語る。このマンガを描くことで矢部自身が介護や認知症についてもっと考えたい、学びたい、知りたい―と考えたことが、手掛けた一番の動機だという。
矢部の描くほのぼのとしたタッチの絵は、それを眺めているだけでも読み手に安心感を与えてくれる。しかもそこで語られるアドバイスは、長谷川医師による医学的根拠を持つ提言だ。この説得力と安心感が、認知症や介護という、つい目をそむけたくなる問題の本質に興味を抱かせ、身に沁みついていた「思い込み」を丁寧に消し去ってくれる。あとに残るのは認知症患者である高齢者へのやさしいまなざしと感謝の気持ちなのだ。
いま介護で疲れ気味の人も、将来介護が待っている人も、高齢社会に生きる者として持っておくべき真実がここにある。気負わず、肩の力を抜いて読んでほしい。
家族に「変化」が見えたときに思い出してほしいこと
- 「怒りっぽい」「わがまま」は認知症の前触れかも
- 肉親以外のほうが微妙な変化を察知できることも
- 変化を感じても家族は、ありのままを受け入れる
- つい怒ってしまったときも、気に病む必要はない
- 「ごはんだよ」ではなく「晩ごはんだよ」と、さりげなく場所や時間などの情報を伝えるよう工夫する
- 「今日は何日?」などと、試すことは避ける
- ヘルパー、デイサービスの積極利用で介護疲れを防ぐ
※著書から抜粋