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がん検診活用術(1)~健康診断とは違う「がんを見つける」検査だが女性や退職者の受診少ない

がん検診活用術(1)~健康診断とは違う「がんを見つける」検査だが女性や退職者の受診少ない
予防・健康
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日本人の2人に1人は「がん」になるといわれている。がんは国内で年間38万人以上の命を奪う一方で、医学の進歩で早期発見・早期治療で助かる命も増えた。がん検診をどのように活用すればよいのか。がん研究会有明病院健診センター(東京都江東区)の藤崎順子センター長に話を聞いた。

がんは早期の段階では無症状のことが多い。自覚症状があって医療機関を受診したときには、進行していることが珍しくはない。自覚症状が出る前に早期発見できれば、身体に負担の少ない治療の選択や、短期間の治療でがんは治せる。

だが、現状では、進行がんで見つかる人が少なくない。

「自治体のがん検診率は全体的に高いとはいえません。中には、定期健康診断を受けていれば、がんも早期発見できると思っている方もいるでしょう。健康診断とがん検診は、検査の種類が異なります。それをまずは理解していただきたいと思います」

こう話す藤崎センター長は、胃がんに対する内視鏡的治療を得意とし、多くの患者を救っている。だからこそ、早期発見・早期治療の重要性を痛感し、がん検診活用の啓蒙活動にも力を注ぐ。

「定期健康診断は、健康状態を把握する検査が主体です。生活習慣病の有無や心肺機能の状態などを見ますが、がんを探す検査に乏しいことが多い。がん検診は、がんという病気を見つけるための検査です。早期発見・早期治療では、がん検診を受けることが重要なのです」

労働安全衛生法で会社員は年1回、健康診断を受けることが義務付けられている。法の定めなので、「面倒だから受けたくない」と思っても、職場から受けるようにと促されるのが一般的だ。しかし、その項目には、がん検診の検査は含まれていない。

人間ドックや自治体などのがん検診の受診をサポートしている企業もあるが、「がん検診は個人の判断に任せる」というケースも見られる。結果として、定期検診は受けてもがん検診は受けない人が一定数いるのだ。

「がんの種類にもよりますが、がんの死亡率は高齢者で急激に上がります。がん検診を受けないまま定年退職を迎え、地域の定期健康診断すら受診せずに、進行がんが見つかることがあるのです」

がんは早期段階では無症状のため、中年期の定期健康診断で発見されないまま定年退職を迎える人がいるのだ。退職後の健康診断やがん検診は、自治体の補助があるものの基本的には自費となる。そのため受診しないまま、進行がんによる体調異変で医療機関を受診し、初めて「がん」と診断されるケースが依然として少なくない。

「高齢者になればなるほど、大きな手術や長期的な薬物療法などの治療は、身体的なダメージが大きい。だからこそ、無症状の段階でがん検診を活用していただきたいです」と、藤崎センター長は呼び掛ける。

がん検診の受診状況

【女性】

  • 胃がん検診  37.1%
  • 肺がん検診  45.6%
  • 大腸がん検診 40.9%
  • 子宮がん検診 43.7%
  • 乳がん検診  47.4%

【男性】

  • 胃がん検診  48.0%
  • 肺がん検診  53.4%
  • 大腸がん検診 47.8%

※40~69歳で過去1年間に受診した人の割合
(厚労省2019年「国民生活基礎調査」から)

解説
がん研有明病院医師
藤崎 順子
がん研究会有明病院健診センター長、消化器内科部長、上部消化管内科部長。1983年、東京慈恵会医科大学卒。東京大学医学部附属病院分院、東京慈恵会医科大学などを経て2016年から現職。胃がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の第一人者。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。