この記事ではアンチエイジングの指標と対策についてお伝えします。
まずはアンチエイジングの指標について注目します。昨今、「アンチエイジング」「若返り」をうたい、さまざまな医療、美容、サプリメントのサービスが展開されています。
しかし、実際にそれらの効果をリアルタイムで客観的に評価する指標は日本では確立されていないのが現実です。知識と経験が豊富な理系脳の中年男性にとって、「どのように評価するか」はとても重要な点でしょう。
アンチエイジングの中でよく注目されるのが見た目(整容性)の年齢です。かくいう私も美容医療に日常的に関わっており、同じ年齢の方でも個体差がさまざまなのは目の当たりにしています。
しかし、整容面はアンチエイジングの片鱗(へんりん)に過ぎず、真の目的は健康寿命の延長にあります。
すなわち、「目がパッチリしている」「鼻が高い」などはあくまで個性でしかなく、その人らしいオーラを保ちつつ生き生きと若々しく見えることが大切なのです。
20世紀以降、人類は未曾有の高齢化社会へと突入し、2007年生まれの日本人の半数は107歳まで生きるという予測もあります。
この超高齢化社会において、誕生からの経過日数より求められる暦年齢はよりもむしろ、組織・細胞の老化の程度から求められる生物学的年齢(Biological Age、以下BA)が重要なのです。
BAの評価方法ですが、さまざまな研究により、DNAのメチル化レベルと強い相関性があることが解明されました。
DNAのメチル化とは各遺伝子の始まりの部分の塩基にメチル基(―CH3)が付加され、その遺伝子がオフになることです。
そして、遺伝子配列とは別の後天的な変化「エピジェネティクス(epigenetics)」により、同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも異なる病気になったり、見た目が変わったりするのです。
生まれてからの時間におおむね比例してDNAのメチル化が進行し、2万~3万ある遺伝子が徐々にオフになってゆき、細胞レベルで老化してゆきます。
このBAを加速させる因子として、肥満、糖尿病、高脂血症、喫煙などがあります。これらは日頃の生活習慣で工夫できると思いませんか?
実は、BAと関係の深い要素として、テロメアとサーチュイン遺伝子があります。
人の体は平均すると約37兆個の細胞でできており、その中の約1%である2000億個の細胞が毎日死んで、それと同時に細胞分裂により新しい細胞が生まれています。その際、人体の設計図である染色体が重要であり、その両端の部分にくっついているのがテロメアです。
テロメアは細胞分裂を繰り返すごとに少しずつ短くなり、最後には分裂できなくなり、細胞は死んでしまいます。すなわち、BAにはテロメアという塩基配列が深く関わっているのです。
細胞の中には、リボソームというタンパク質を合成する器官があります。
このリボソームを作る遺伝子の情報を調節しているのがサーチュイン遺伝子です。別名、長寿遺伝子とも呼ばれ、普段は眠っているのですが、一度働きだすと、ミトコンドリアの酸化ストレスを軽減させたり、炎症を抑制させたりするなど、アンチエイジングに大きく貢献します。
欧米のアンチエイジングの研究で一致している見解は、カロリー制限により細胞内のオートファジー(自食作用)を活性化させ、個々の細胞をリニューアルさせていくことです。
オートファジーを活性化させる代表的な方法として、①炭水化物の摂取量を減らす②ニコチンアミドモノクレオチド(通称NMN)③mTOR阻害薬(分子標的薬)④メトホルミン⑤SGLT2阻害薬―などが有効である可能性があります。
セルフケアとして、①は誰でも実践できます。炭水化物を制限し体に必要なエネルギーの70%ぐらいの摂取に抑えて軽い飢餓状態にしたり、軽めのウオーキングなどの運動をしたりすることで、サーチュイン遺伝子は活性化され老化のスピードが抑えられると報告されています。
逆に、内臓脂肪が蓄積するとサーチュイン遺伝子の活性が低下するため、飽食やメタボリックシンドローム(肥満)は老化を加速させる要因となります。
いろいろと難しいことをお伝えしてきましたが、アンチエイジングに一番重要なことは、①食事のカロリー制限②適度な運動③良眠&ストレス処理―の3つです。
アンチエイジングに高額な費用をかける前に、最も身近にあり、一番重要な生活習慣を見直してみましょう。
アンチエイジング評価のポイント
- アンチエイジングをリアルタイムで客観的に評価できる指標は確立されていない。
- 超高齢化社会においては暦年齢よりも生物学的年齢の方が重要である。
- 生活習慣の乱れは細胞の加齢を加速させる。
生物学的年齢を若返らせるポイント
- Biological Age(生物学的年齢)はテロメア&サーチュイン遺伝子と深い関係にある。
- カロリー制限による細胞内のオートファジー(自食作用)の活性化はBAの若返り因子である。
- アンチエイジングには食事のカロリー制限、適度な運動、良眠&ストレス処理の3つが最重要である。