高齢者に増えている「スマホ認知症」は、スマホ依存が高じて、認知症と同じような症状を発することです。物忘れがひどくなったり、集中力が低下したり、言葉がうまく話せなくなったりします。スマホのやり過ぎは、精神ばかりか身体的な健康も蝕(むしば)みます。就寝前にスマホのブルーライトを大量に浴びることで睡眠ホルモンの分泌量が減少し、睡眠不足に陥ります。ノンレム睡眠が不足すると脳は休息不足になり、ボケにつながります。
スマホ認知症を診断するための簡単なチェックリストがありますが、私がいちばん重視しているのは、「トイレにスマホ持っていく」「寝る前にスマホをやらないと寝つけない」の2つです。「歩きスマホ」も重視する項目の1つで、高齢者の場合は、とくに転倒リスクが高まるので絶対にやめるべきです。
高齢者がスマホにハマるのは、年を取るにつれて孤独感が深まるからです。現在、日本社会の高齢化率は30%近くに達し、そのうち独居老人の占める割合は男性が約17%、女性が約23%です。1人暮らしの方、施設に入っている方、家族と同居している方、そのすべてが、みな若いときと比べたら孤独感を抱えています。それは、社会的なつながり、人間関係が薄れたからです。
この孤独感を埋めるために、スマホは最適なツールです。そのため、いま、フェイスブック、ツイッター、LINEなどのSNSは「老人ツール」と揶揄されながらも、若い世代よりシニアや高齢世代が盛んに使っています。ところが、やり過ぎると逆に孤独感をいっそう深めるのです。
知らないですんだはずの、他人の幸せをフェイスブックやインスタグラムなどで知るはめになりました。中には多くの“演出”もあります。しかし、やり続けるには、この“幸せ演出”競争に参加しなければならないのです。それに疲れると心が病みます。「自分はなんて不幸なんだ」と孤独感が余計に深まり、嫉妬心も強くなります。「自分にはSNSに投稿するものが何もない」と、老人性うつ病になった人もいます。
書き込みに対する反応である「いいね」やフォロワー、リツート、アクセス集めは、「リア充(私生活が充実)」ではない高齢者にとって、不健康への道です。
孤独感、嫉妬心が健康に与える悪影響はさまざまです。研究報告では、うつ病、統合失調症などの精神疾患から、心筋梗塞、脳卒中などの身体疾患で生死にかかわるものまであります。孤独が早死にを招くという調査報告もあります。
スマホ依存症、スマホ認知症から脱却する方法は、大きく分けて2つ。1つは、デジタルデトックス(一定期間、離れること)を行う。もう1つは、家族や友人と過ごす時間を増やすことです。つまり、1人でいる時間を減らし、社会的なつながりを増やします。2つとも家族や周囲の協力が必要ですが、デジタルライフは人間本来の生活ではありません。
意外に知られていませんが、日本は精神科専門病院のベッド数が世界一多い国です。精神科への入院日数は約400日と、世界の主要国に比べて異常に長いのです。
これは、高齢者の多くが、心を病んでいることを表しています。病室の数以上に通院患者もいるわけですから、日本は「心の病大国」と言えます。スマホより、リアル世界で社会、友人、家族とつながりながら暮らすことを強くお勧めします。