「スマホ依存症」(ネット依存症)はいまや子供や若者ではなく、高齢者の切実な問題です。ツイッターやフェイスブックは、若い世代より中高年世代で流行っているのです。高齢者ほどデジタル免疫がないため、ハマると抜け出せません。現役引退後に近所づきあいや趣味の交流程度しかなくなった高齢者ほど、スマホ利用時間が長くなる傾向があります。
精神科、心療内科ではスマホ依存症の患者さんが増えていますが、とくに高齢者の割合が増しています。「独居老人」が増えたことも大きく影響しています。
特徴は、とくにSNSに熱中しすぎることです。フェイスブックに四六時中チェックインして「どこにいて何をしているか」を投稿するようになる。毎日、ユーチューブで、自分がつくった料理動画をアップする。ツイッターで、日々のニュースに関して随時ボヤいている。LINEで何回もグループ投稿をする――など。楽しんでいるうちはいいのですが、そのうち、触らないと落ち着かなくなり、依存が進行します。
「最近、物忘れがひどくなった」「1つのことに集中できなくなった」「ときどき言葉が見つからず、うまく話せなくなった」と、認知症を疑って診察に見える患者さんに、スマホ依存の人が増えています。これを最近は「スマホ認知症」と呼ぶようになりました。
高齢者にとって、とくに1人暮らしの高齢者にとっては、スマホはネットショッピング、ネットバンキング、メール、情報収集、家族・友人との交流など非常に便利なツールです。が、やり過ぎると認知症と同じような症状に陥ります。スマホ依存と認知症が同時進行するケースもあり、こうなると非常に厄介です。
次のような点があれば危険度は高まります。
①スマホを使う時間を自らの意思でコントロールできない
②スマホ以外の物事への関心が低くなった
③食事中、会話中、就寝前と常にスマホを使用している
④日常生活に支障が出るようになった
人間の脳の情報処理能力には限度があります。スマホと同じで容量を超えると作動しなくなるのです。脳の前頭葉が処理できないほどの情報を浴びると、身体的にも影響が出ます。とくにSNSのやり過ぎによる睡眠不足は最悪です。
スマホ認知症には、「マウンティング」も関係します。これは、動物が群れの中で自分の方が優位だと上下関係を示唆する行動から生まれた言葉です。本来、人間にはプライドがあるので、普段は判断力や抑制力で態度に表さないようにしています。ところが、認知症ではこの抑制が効かなくなり、思い通りにならないことに腹を立て、自分に不利なことを認めようとしなくなります。
このマウンティングは、SNSで助長されます。たとえば、ツイッターでは、自分より上の人間を「クサす」「ディスる(おとしめる)」つぶやきをします。下の人間には、見下したりバカにしたりするツイートをします。こうすると、脳の報酬系が刺激され、強い快感を覚えるのです。
認知症外来で来た患者さんの中に、こうしたマウンティング・ツイートばかりしていた高齢男性がいました。
SNSなどなかった時代、こうした高齢者は、家族や近所の迷惑ですみました。しかし、いまは社会の迷惑です。スマホ、SNSの普及で人間の精神状態は大きく変化したと言えます。