コラム 高齢者にも激増 危険なスマホ依存症

高齢者にも激増 危険なスマホ依存症(1)~SNSが高齢者のキレやすさを助長?

高齢者にも激増 危険なスマホ依存症(1)~SNSが高齢者のキレやすさを助長?
コラム・体験記
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スマートフォンの使い過ぎで、日常生活に支障をきたす患者さんが増えています。いわゆる「スマホ依存症」ですが、現在は若者より高齢者のほうが多いです。若者の場合、「ゲーム依存症」が中心ですが、高齢者の場合は、ツイッター、フェイスブック、LINEなどの「SNS依存症」が中心です。SNSをやり過ぎることで、精神状態が不安定になり、怒りっぽくなったり、すぐにキレたりします。人間、歳を取ると怒りっぽくなりますが、SNSはそれを助長するわけです。

69歳の男性のケースでは、家族が「なんとかしたい」と受診を申し出ました。「父はマジメ、きちょうめんな性格で、会社をリタイアするまでスマホを持っていませんでした。やり方を教えたらハマってしまい、1日中やっています。とくにツイッター、フェイスブックには四六時中アップ(書き込み)していて、家族のことも平気で公開します。“いい加減にして”と言うとケンカになり、思いあまってスマホを取り上げると、カッとなってキレるのです」

昼間はスマホをやってばかりで人の話を聞かず、夜はベッドで遅くまで手放せない―明らかな依存症で、スマホの場合、アルコールや薬物の依存症と異なり、治療のためのクスリがないので厄介です。

本人は「フェイスブックで“いいね”や“フォロワー”をたくさん集めて、なにが悪い」「私をアルコール依存症と同じに扱うのか」と、言うことを聞いてくれません。明らかに生活を支配されていて、治療のゴールはそこからの脱却です。つまり、利用時間を自らの意思でコントロールすることですが、再発を繰り返すことが多いのです。

高齢者の場合、デジタルに対する免疫がないため、若者より熱中しやすいとも言えます。いまやツイッターやフェイスブックはユーザー数を減らし、若者たちから「古いツール」とバカにされていますが、そんなことは知りもしません。

この患者さんの場合は、「今どきの若者は」をつぶやくと「いいね」が増えるので、酔いしれていました。脳科学的に言えば、「いいね」はドーパミンを大量に分泌させます。また、前頭葉の機能を低下させ、感情のコントロールが利かなくなります。

総務省の調査データによると、60代以上のスマホの利用率は80%超。20代、30代は90%超ですから、高齢者も若年世代に近づいています。また、60代以上のテレビの利用率は67%、パソコンが60%と肉薄。スマホは主要な情報、コミュニケーションツールに取って代わる勢いです。まさに〝ソーシャル〟ネットワークであり、社会との接点として孤独な老人に親和性があるのです。3度の食事を全て投稿する人もいますが、こうなると依存症は目前です。

こうした中、スマホと切り離すため、機材を預けて自然を体験する「デジタルデトックスキャンプ」、チェックイン時に預ける「脱デジタルステイ」、企業からの依頼で社員向けに行う「デジタルデトックス講習」も注目されています。

SNSのうち、高齢者がいちばん親しんでいるのがツイッターです。日本ほどツイッターが流行っている国はありません。イーロン・マスク氏が指摘するように、人口に対するユーザーの割合は米国の2倍。その理由は、匿名性にあり、140字の文字制限が日本人の思考、知能程度に適しているからとも言われます。それ以上だと理解できないというのです。

脳の老化の最大の弊害は、情報処理能力、認識能力の低下です。ツイッターをやり過ぎると、脳の老化をますます促進させてしまいます。

解説・執筆者
明陵クリニック院長
吉竹 弘行
1995年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、浜松医科大学精神科などを経て、明陵クリニック院長(神奈川県大和市)。著書に『「うつ」と平常の境目』(青春新書)。