がん 女性の病気 検査 定年後、夫婦に重大な健康リスク

定年後、夫婦に重大な健康リスク(4)~女性のがんは60代で増えるが男性と比べ受診率低い

定年後、夫婦に重大な健康リスク(4)~女性のがんは60代で増えるが男性と比べ受診率低い
病気・治療
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定年後の話題は年金から健康問題まで、男性を対象にしたものに偏りがちだ。それではいけない。定年後に起こる女性の健康危機、検査・健診離れの実態はどうか。女性も既婚、独身を問わず終身雇用で定年まで勤め上げる人は増えている。

「会社員時代の健診は、労働安全衛生法で受診が義務付けられており、就業時間内の会社の年間事業として設定され、会社の健康保険組合(健保)や職場の上司の指示もあり特別な事情がなければ皆受けてきたはずです。しかし、定年後、会社の縛りがなくなると、健診から足が遠のいてしまう人が少なくない状況が見られます」

こう話すのは、労働衛生コンサルタントして活躍する澤ヘルスデザイン研究所(千葉県)の澤律子所長。

健保は、定年後2年は任意継続被保険者として被保険者資格の期間延長を本人の費用負担の増額を前提に認めているが、その後は、大半の人は国民健康保険(国保)に切り替えることになる。

「自分の住む市区町村から健診の案内が届くことになります。ただ、健康に大きな問題がなくそれまで健診を会社に任せきりだった人は、国保になって自分で申し込んで受けるのが面倒になる例があります」(澤所長)

その結果、定年後の健診離れが起き、健診や人間ドック、がん検診の受診率が低下する。健診の1つ、40~74歳を対象とした特定健診で見ても、女性の受診率(2020年度)は60代以降、60~64歳と65~69歳で減少。同じ期間で男性と比べ、女性の方が低い受診率だった=表参照。

その前の50歳前後で女性は更年期に入り、病気のリスクが上昇している。女性ホルモンの分泌が相対的に減少して骨粗鬆(こつそしょう)症などの危険が高まり、脂質代謝が低下し太りやすくなる。そうした健康上のハンデを背負って、女性は定年を迎えることになる。

「定年後に心身のバランスを崩す人は多く、女性でも同様です。会社員時代は、少々体に異常を感じていても、気力と体力でそれを乗り越えてきた役職者などは、特に定年後、緊張感が薄れると、体調不良を訴えるケースが出てくるのです」(澤所長)

女性の場合、がんでは乳がんをはじめ、子宮体がんや大腸がんなどが60代で増える。心筋梗塞や脳卒中も60代になると、50代に比べて3倍に増加し、死亡率も高まる。そうした中、がん検診を含めこうした受診率低下の傾向は「極めて危険だ」と澤所長は考えている。

また、同様の健診離れは、直接的に大きく生活環境が変わることはなくとも、夫が定年した後の主婦にも起きがちだ。

女性の健康寿命(介護などなく健康に過ごせる時期)は75.38歳と男性に比べて、2.7歳も長い。ただ、70代、80代を健康で迎えるには、60代を健康に過ごすことが大切になってくる。病気の兆候をすばやく見つけ、早期に治療することが何よりも重要だ。

「がん検診を含めた広義の健診は、法によって半強制的に受けさせられるものではなく、自分の意思で自分のために受けるものと捉え直すことが必要です。自分の体はご自身で、生涯にわたって大切にしてもらいたいものです」と澤所長は訴えた。

澤律子(さわ・りつこ)

労働衛生コンサルタント・実務家教員。1985年東京医科歯科大学医学部附属臨床検査技師学校卒。日本予防医学協会執行役員などを経て2019年、澤ヘルスデザイン研究所を設立。21年先端教育機構社会情報大学院大学実務家教員養成課程修了。東京労働局外国人特別相談支援室相談員、衛生工学衛生管理者、心理相談員、埼玉医科大学非常勤講師。今春、東京医科歯科大学大学院修士課程に入学。
 

「健活手帖」 2023-04-28 公開
執筆者
医療ライター
佐々木 正志郎
医療ライター。大手新聞社で約30年間、取材活動に従事して2021年に独立。主な取材対象はがん、生活習慣病、メンタルヘルス、歯科。大学病院の医師から、かかりつけ医まで幅広い取材網を構築し、読者の病気を救う最新情報を発信している。医療系大学院修士課程修了。