がん 検査 定年後、夫婦に重大な健康リスク

定年後、夫婦に重大な健康リスク(3)~早期発見が難しい腎臓がん、CT検査が決め手に

定年後、夫婦に重大な健康リスク(3)~早期発見が難しい腎臓がん、CT検査が決め手に
病気・治療
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腎臓がんは40~50代から増え始め、60代以降にさらに増加する傾向がある。定年前後に要注意のがんの1つだ。スポーツマンで頑強なイメージのある俳優の小西博之さん(63)もそうした年代で腎臓がんに侵されていることが判明した。

小西さんは2004年夏ごろから血尿と体重減少という初期症状が出始め、同年12月には大量の血尿が出て病院を受診した。精密検査の結果、左腎臓に20×13センチの大きながんが確認された。ただ、手術適用だったのが幸いして、翌05年、大手術の末、無事、左腎臓を摘出することができた。

小西さんのがんは末期に近い状態で発見されたが、定期的に健診や人間ドックを受けていると、早期で発見されることも少なくない。早期発見なら治療方法や予後(医学的な経過の見通しや生存期間)も違ってくる。

首都圏に住む松平君代さん(60代後半=仮名)は60歳の定年後も、平成横浜病院(横浜市)の総合健診センター長(東邦大学医学部名誉教授)の東丸貴信医師のもとで、健診と人間ドックを交互に受けていた。健診の検査項目は、血液、胸部X線、心電図などで、ドックでは、腹部超音波(エコー)検査など画像検査が加わる。

「昨年は健診を受け、胸部X線、腫瘍マーカー含む血液検査、尿検査などでは異常は認められなかった」と東丸医師。ただ、それでひと安心とならず、胸腹部CT検査で、右腎臓に約3×3センチ大のがんが見つかった。東丸医師の勧めでこのCT検査を追加していた。

エックス線画像の赤い矢印で指したところが腎臓がん

松平さんは血尿などがんの前兆がなかったことから、「突然、腎臓がんと告げられ本当にショックでした」と振り返る。

東丸医師は腎臓がんの検査について次のように解説する。

①腎臓がんでは血尿が出ることがあるが、すべての例で出るわけではない
②初期の小さい腎臓がんはほぼ無症状
③腫瘍マーカーや血液・尿検査では早期の腎臓がんの診断・発見は難しい場合がある

腎臓がんの危険因子として高血圧、肥満などが挙げられる。松平さんは肥満体型のため、これが原因の1つになった可能性がある。ただ、早期に見つかったため、がんの転移はなく、初期のがんで済み、右腎臓の摘出となった。いまのところ、再発はなく、経過は良好という。

片方の腎臓を摘出しても大丈夫かという不安もある。腎臓は、背骨の両側のちょうど腰の高さのところにソラマメのような形で左右1つずつある。東丸医師は腎臓の主な働きとして「血液中にたまった老廃物を尿として外に出したり、余分な水分を排出して水分のバランスを整えたりすることなどがあります。片方の腎臓を摘出しても、もう1つの腎臓が機能を補うので、徐々に慣れてくれば大きな支障はないでしょう」と話す。

松平さんは一昨年のエコー検査では、がんは映らず、見過ごされていた。映らなかったのは肥満やガスなどのためとみられる。過剰な検査は原則、推奨されないが、今回のケースでは健診の検査だけだと、がんが見つからず、そのまま進行していた恐れがあった。がんを見つけた決め手は胸腹部CT検査だった。

東丸医師は「CT検査は、小さながんでも発見できる半面、被曝のリスクもあり、検査は2~3年に1度でもいいかもしれません。また、被曝が心配な人は担当医に相談し、低線量のCT検査にして被曝量を減らす方法もあります」とアドバイスした。

「健活手帖」 2023-04-27 公開
解説
医師、平成横浜病院
東丸 貴信
1978年、東京大学医学部を卒業。日赤医療センター循環器部長、東邦大学医学部教授を経て、2017年から平成横浜病院総合健診センター長。汐留シティセンターセントラルクリニックでは非常勤で診察。東邦大学医学部名誉教授。
執筆者
医療ライター
佐々木 正志郎
医療ライター。大手新聞社で約30年間、取材活動に従事して2021年に独立。主な取材対象はがん、生活習慣病、メンタルヘルス、歯科。大学病院の医師から、かかりつけ医まで幅広い取材網を構築し、読者の病気を救う最新情報を発信している。医療系大学院修士課程修了。