脳・脳疾患 おすすめ記事 検査 定年後、夫婦に重大な健康リスク

定年後、夫婦に重大な健康リスク(1)~定年で「人間ドック」停止して4年後、69歳で半身麻痺、脳梗塞発症も

定年後、夫婦に重大な健康リスク(1)~定年で「人間ドック」停止して4年後、69歳で半身麻痺、脳梗塞発症も
病気・治療
文字サイズ

定年で長年の会社勤めから解放されると、それまで受けていた健診や人間ドックを受けなくなる人が少なくない。これは男女共通の現象だが、病気は年を重ねるにつれ増える傾向にあり、とくに定年後にそのリスクが増大する現実に目をつぶってはいないだろうか。健診の有無で病気になった人と早期発見できた人の明暗を紹介する。

「私の患者さんでも定年後、健診を受ける機会が減り、突然、大きな病気が見つかるケースがあります」

平成横浜病院(横浜市)総合健診センター長(東邦大学医学部名誉教授)の東丸貴信医師がそう警告する。

首都圏に住む井川四郎さん(70代=仮名)はその典型例だろう。

井川さんは65歳で定年後、会社の費用で受けていた人間ドックも終了となり、その後は人間ドックや健診は受けなくなった。一般内科を受診して、降圧薬と糖尿病薬を服薬していたが、検査は血圧測定と血液検査のみであった。そんな中、異変に襲われた。

「井川さんは、69歳の時に、突然、左半身の麻痺(まひ)が生じ、緊急入院となりました」(東丸医師)。麻痺の原因を探ろうと、次々に検査が実施された。心臓エコー検査では大動脈弁が硬くなっていたが、心機能は正常であった。頸動脈エコー検査では高度の動脈硬化がみられたが、頸動脈エコーの狭窄はなかった。ところが、心電図検査で心房細動が認められ、MRI検査により脳梗塞が麻痺の原因であることが分かった。

「MRIで、大脳動脈(心臓からつながる太い血管)の閉塞と大規模な脳梗塞が認められました。高血圧症などの生活習慣病で頸動脈や大動脈弁の硬化が進んでおり、全身の動脈硬化が進んでいることが示唆されます。動脈硬化があると、血栓もできやすくなり、脳梗塞も起こりやすくなります」

左側の赤で囲んだ部分が脳梗塞を起こしたところ。細胞が壊死している

東丸医師が続ける。

「ただ、この患者さんの場合は、心房細動が脳梗塞の原因と思います。心房細動で左心房に血液がよどみ、そこに出来た血栓が脳に飛んでいき、脳動脈を詰まらせ、心原性脳梗塞になったと考えられます」

井川さんは一命を取りとめたが、脳梗塞に伴う半身の麻痺が残った。脳梗塞を含む脳卒中は後遺症から寝たきりとなる原因の1位で、死因では4位にランクされる。悔やまれるのは、65歳以降、健診を積極的に受けなかったことだ。

東丸医師は次のように要点をまとめた。

<高齢者で増加する心房細動は定期的に健診を受けていれば、見つかることが多い

<人間ドックのオプションで脳ドックや心臓血管ドックを受けていれば、心房細動のほか、脳動脈硬化や大動脈弁硬化などのリスクを確認できたはず

では、定年後の健診はどのように継続したらいいのだろうか。

安心なのは毎年、人間ドックを受けることだろう。ただ、人間ドックを自費で毎年受けるのは、経済的に難しいケースが多い。費用を抑える“裏技”もある。東丸医師は「定年してから数年の間に人間ドックを一度受けて、病気のリスクが分かれば、その後はリスクの高い分野の検査を個別でフォローする方法もあります」と助言する。

ほかの方法もある。「在籍していた会社の健保組合の方針にもよりますが、定年後2年間は、在職していた健保の健診を受けられることがあります。また、国民健康保険(国保)に移行すれば、市区町村の健診(検診)を受けることができます」と、東丸医師は検査・健診の大切さを訴える。

「健活手帖」 2023-04-25 公開
解説
医師、平成横浜病院
東丸 貴信
1978年、東京大学医学部を卒業。日赤医療センター循環器部長、東邦大学医学部教授を経て、2017年から平成横浜病院総合健診センター長。汐留シティセンターセントラルクリニックでは非常勤で診察。東邦大学医学部名誉教授。
執筆者
医療ライター
佐々木 正志郎
医療ライター。大手新聞社で約30年間、取材活動に従事して2021年に独立。主な取材対象はがん、生活習慣病、メンタルヘルス、歯科。大学病院の医師から、かかりつけ医まで幅広い取材網を構築し、読者の病気を救う最新情報を発信している。医療系大学院修士課程修了。