コラム

【ベストセラー健康本】『子育てと介護が同時に襲う「ダブルケア」 事例からひもとく連携・支援の実際』

【ベストセラー健康本】『子育てと介護が同時に襲う「ダブルケア」 事例からひもとく連携・支援の実際』
コラム・体験記
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「ダブルケア」という言葉をご存じだろうか。狭義では、子育てと親などの介護が同時進行している状態を指す。いま社会問題にもなりつつあるテーマを扱うのが、『子育てと介護のダブルケア 事例からひもとく連携・支援の実際』(中央法規出版刊。2420円)である。

晩婚に伴う晩産化、少子高齢化、核家族化などで増えているという「ダブルケア」。誰もが直面しうる深刻な課題なのに、情報は少なく、当事者はとてつもない孤独や疲労に襲われることが多い。そんなダブルケアラーに〝頼れる〟内容だ。

ダブルケアラー自身の語りに基づいた26の事例を紹介。それらに対し、ケアマネジャー、ホームヘルパー、ソーシャルワーカー、介護福祉士、デイサービスセンター、保健師、看護師、リハビリ職、保育士、認知症カフェなど、多種多様な専門職や支援者が、非常に具体的な「支援の視点」をコメントしている。

一例を紹介しよう。

専門職とうまく関係が築けず制度やサービスを十分に利用できなかったAさん(30歳女性・専業主婦)のケース=70代の義母とうつ病・認知症の義父、夫、3歳と1歳の娘と6人暮らし。

【一番大変だったとき】 子ども2人がインフルエンザ感染。義父が転倒し、病院の送迎をする中、Aさんも発熱。ケアマネジャーに訪問介護の利用を相談するも、Aさんが同居で働いていないという理由で却下される。義父は日頃から介護保険サービスへの拒否感が強かったため、利用させてもらえなかったのではないかと、ケアマネジャーに不信感も。

【ケアマネジャーの視点】 ケアマネジャーがまず向き合うべきは、義父の「介護保険サービスへの拒否感が強い」という点。どのような事由で拒否しているのかAさんと一緒に考えたり、夫や義父に協力を仰いだりする方法も。包括支援センターや行政の子育て支援等の相談先の提示や情報共有等の支援も有用。義父の主治医にも状況を相談しながら治療につなげることも必要だったか。

【ダブルケア経験者の視点】 ダブルケアラーが周囲にサポートを求めるのはよほどの状況になってから。子育てと介護のバランスを保てず、ダブルケアラー自身の心身の健康状態にも影響が出ている可能性がある。

編著者の1人、NPO法人こだまの集い代表理事の室津瞳さんが、本書に携わった思いを語る。

「私自身、第2子を妊娠中に両親の介護と未就学児の娘の育児、さらにフルタイムで仕事というダブルケアを経験しました。育児と介護を両立する支援や情報を得られず、大変な思いをしたことが支援団体を作るきっかけになりました。ダブルケアラーの支援では、つながることが重要です。子育て、高齢者介護、障害などあらゆる分野の専門職や当事者が垣根を越えてつながることで支援の道が切り開かれるはずです」

いつか訪れる日の「予習」としても心強い1冊だ。
 

ダブルケアラーに関係の深い介護保険サービス

【居宅介護支援】
①訪問型サービス……訪問介護、訪問看護、訪問入浴介護、訪問リハビリ
②通所型サービス……通所介護(デイサービス)、通所リハビリ(デイケア)
③宿泊型サービス……短期入所生活介護(ショートステイ)、短期入所療養介護(医療系ショートステイ)
④複合型サービス……宿泊型通所介護、小規模多機能型居宅介護

【福祉用具等サービス】
福祉用具貸与、特定福祉用具販売、住宅改修

※本書から抜粋

「健活手帖」 2023-04-14 公開
執筆者
ジャーナリスト
田幸 和歌子
医療ジャーナリスト。1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。「週刊アサヒ芸能」で健康・医療関連のコラム「診察室のツボ」を連載中。『文藝春秋スーパードクターに教わる最新治療2023』での取材・執筆や、健康雑誌、女性誌などで女性の身体にまつわる記事を多数執筆。