大腸がん治療の名医をご紹介してきたシリーズの最後を飾るのは、信州を代表する大型民間病院で活躍する「外科医出身の化学療法医」である。
長野県松本市にある相澤病院は、460の病床と38の診療科を擁するほか、2018年の平昌五輪女子500メートルスピードスケート金メダリスト・小平奈緒選手の所属先としても知られる県内屈指の基幹病院だ。
ここのがん集学治療センター化学療法科統括医長を務める中村将人医師は、外科医として9年にわたって手術を行ったのちに腫瘍内科に転科した化学療法のスペシャリスト。現在は大腸がんを始め、あらゆる悪性腫瘍に対して、診療科の枠を超えた〝集学的治療〟を行うチームの中心的存在だ。
「病気を診るのではなく患者を診る」をモットーに、患者に寄り添う医療に徹底的にこだわり抜く中村医師。
「治療技術の進化によって治療成績が向上してきたのはもちろんですが、私たちが目指すのは“その先”です。患者さんの生活の質を維持し、いま行われている治療に対して患者さんがどう感じているのか(ペイシェント・レポーテッド・アウトカム=PRО)を重視しています」
言い換えれば患者一人一人に合わせた、柔軟性のある個別化医療の実践、ということになるが、化学療法でこれを行うのは簡単ではない。
それでもこだわるのは、自分自身もがん患者だということが背景にある。
「甲状腺がんなんです。当院で手術を受け、現在も治療継続中です」
明るくそう話す中村医師は、自身ががんを経験したことで患者の内面的な苦痛が理解できるようになった、と振り返る。
外科医出身ならではの豊富な経験と最新技術に加え、同じ「患者仲間」としての共通理解を駆使し、宿敵・大腸がんに挑んでいく。
中村将人(なかむら・まさと)
1973年、大阪府生まれ。97年信州大学医学部を卒業し、大阪大学医学部消化器外科入局。国立病院機構大阪医療センター外科、吹田市民病院外科、阪大医学部附属病院外科勤務を経て、2006年から相澤病院外科。07年から現職。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本臨床腫瘍学会指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医他。趣味は「楽器演奏とバンド活動」。