転倒予防 Dr.ムトーの「転ばぬ教室」

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(18)~カーテン越しでもOK 無理をしない日光浴でビタミンDをとる

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(18)~カーテン越しでもOK 無理をしない日光浴でビタミンDをとる
予防・健康
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転倒予防のためにはどんな栄養をとるといいですか? と聞かれることがよくあります。私の答えは極めてシンプルで、「いろいろ食べてください」。

この「いろいろ」には、いろいろな種類と同時に、色とりどりの意味が込められています。緑、黄、赤、茶、白…と、さまざまな色合いを意識して1日3食、主食・主菜・副菜をとると、結果的に、多彩な栄養をムリなく、長くとることができるのです。

具体的な栄養素を挙げるとしたら、タンパク質と、骨の健康に強く影響するビタミンDとカルシウムは大切です。

ビタミンDは、日光を浴びることによって皮膚で作られます。人間の体内が作り出すことのできるビタミンは、唯一、このビタミンDだけ。よって、「サンシャイン・ビタミン」とも呼ばれています。

最近では、ビタミンDには筋肉や神経を活性化させる働きがあり、さらには転倒予防効果もあることがわかっています。したがって、日光を浴びて散歩をしたり、ウオーキングをしたりする習慣は、転倒を防ぎ、骨折を防ぐことに結びつきます。

とはいえ猛暑やコロナ禍で、外に出かけられないことも多い時期です。そんな時は、窓のそばで少し日光を浴びるだけでも効果があります。カーテン越しでもかまいません。くれぐれも熱中症には気を付けて、日光からビタミンDを得てみてください。

日の光を浴びるともう一つ良いことがあって、脳内の「睡眠ホルモン」(メラトニン)の分泌が整えられて、眠りが安定します。高齢になると眠りが浅くなったり、長時間眠れなくなったりします。その結果、夜中に起き上がるなどして、転倒につながるケースが少なくありません。日光を浴びることで、睡眠の安定化も期待できます。

年をとると、食も細くなります。高齢の親にたくさん食べて栄養をとってもらうにはどうしたらいいですか、と相談を受けることがありますが、食が細くなった人に必要なのは、栄養の前に「笑顔」だと私は思っています。

「笑う門には福来る」は、医学的な事実です。笑うと、免疫細胞(ナチュラルキラー細胞)が活性化し、免疫力が高まります。また、笑うと、リラックスしている時に働く「副交感神経」が優位になります。笑うと楽しくなってエネルギーが湧いてくる。だからよく笑う人は、よく食べるのです。

食欲が落ちている人は、食事の味付けよりも、日々の生活の味付けを考えてみてください。趣味で笑ったり、テレビで笑うのもいい。共に笑いあう人がいたら、なおいいですね。

「健活手帖」 2022-08-04 公開
監修者
医師、東大名誉教授
武藤 芳照
1950年生まれ。医師。75年名古屋大学医学部卒業。東京厚生年金病院整形外科医長、東京大学教育学部教授、同大学理事・副学長、日本体育大学保健医療学部教授などを歴任。日本転倒予防学会初代理事長、一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。スポーツ医学、身体教育学等の著作は100冊を越える。現在、一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所代表理事・所長。東京大学名誉教授。