転倒予防 Dr.ムトーの「転ばぬ教室」

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(11)~階段を“無料の運動機器” として利用しよう 運動は「4・3の法則」で

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(11)~階段を“無料の運動機器” として利用しよう 運動は「4・3の法則」で
予防・健康
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「転倒」は、今や交通事故死よりも多く、要介護や寝たきりになる主要な原因の一つです。私は1997年に、都内の病院内に、日本初の「転倒予防教室」を創設して以来、長年にわたって、転倒予防に取り組んできました。今日から始まる集中連載では、6月にご好評をいただいたシリーズに続く【実践編】として、「転ばない体づくり」をテーマに、10回にわたって転倒予防のために“今日からできること”をお伝えします。

筋肉は年齢を重ねるにつれて、誰しも弱っていきますが、中でも特に弱る脚の筋肉が2つ。「老化は脚から」なのです。1つ目が「大腿四頭筋」。太ももの前の筋肉です。

たとえば糖尿病の人では、この太ももの前の筋肉が痩(や)せる例が多くあります。糖尿病などの全身の病気になると、太ももは細くなって脚力が弱り、生活・移動動作に支障が出て、結果的に転びやすくなります。

2つ目が「腓腹筋」、ふくらはぎの筋肉です。ふくらはぎは「第二の心臓」と言われるほど、血流ポンプの重要な働きをしています。健康的な歩き方のポイントは、後ろ足をしっかり蹴ることですが、ふくらはぎの筋肉が衰えてくると、この蹴る動作が十分にできなくなるのです。

ふくらはぎには、運動習慣や経験、健康度といった身体情報が表れます。私はふくらはぎを見ると、その人が若い頃に、運動・スポーツを熱心に行っていたか、おおよその推測ができます。運動をしていなかった人のふくらはぎは筋力が弱く平たいです。

以前、地方に講演に訪れたときのこと。講演を終えて会場を出ると、スポーツ指導者だという参加者の“出待ち”に遭遇しました。といってもお目当ては私ではなく、同行した一人の女性スタッフ。キビキビと動き回る働きぶりに加え、「ふくらはぎが美しくて素晴らしい」から、どんな生活や運動をしているかを聞きたいということでした。スタッフは体育系大学出身で、当時も運動を続けていた人ですから、参加者の目は確かだったというわけです。

この2つの筋肉を日常生活の中で鍛えるには、「階段」を使い、「坂道」を歩きましょう。とくに階段は、世の中に実にたくさんあります。街が作ってくれた“無料の運動機器”だと思って、階段の昇り降りをしてください。

ただし、ムリは禁物です。張り切って階段を一段飛びして上って、上り切ったところで倒れた、などの事例もあります。階段に限らず、運動には「4・3の法則」を唱えています。1週間のうち3日はサボってよし。大事なのは続けること。「4・3の法則」で、太ももとふくらはぎを鍛えましょう。

「健活手帖」 2022-07-26 公開
監修者
医師、東大名誉教授
武藤 芳照
1950年生まれ。医師。75年名古屋大学医学部卒業。東京厚生年金病院整形外科医長、東京大学教育学部教授、同大学理事・副学長、日本体育大学保健医療学部教授などを歴任。日本転倒予防学会初代理事長、一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。スポーツ医学、身体教育学等の著作は100冊を越える。現在、一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所代表理事・所長。東京大学名誉教授。