ヤマトタケルが杖をついて歩いたとされる道「杖衝坂(つえつきざか)」が三重県四日市市にあります。伊吹山の荒神を討伐の後、疲れ果て、腰の剣を杖にして歩いたと伝えられています。
古来より杖は、年老いた人や、体の弱った人を助けてきました。杖をつくことによって、安定した歩行が可能になり、脚の痛みが軽減されます。その結果、転倒しやすい状態も改善される。「転ばぬ先の杖」の言葉通り、杖は転倒予防に大きな役割を果たすのです。
しかし、日本にはステッキ文化がないせいか、杖に抵抗を感じる人は少なくありません。膝関節や股関節が強く痛む患者さんに杖をすすめても、「杖をつくほど年寄りではない」「杖をつくほど足が悪くない」と、拒否されることがありました。
右か左、どちららか一方の脚への不安が持続しているようだったら、杖の使用を考えてみてください。杖をつくことで、ラクに歩けるようになり、また、きれいに歩けるようになります。弱った脚、痛む脚をかばって歩いていると、脚自体も辛い上に、体の他の部分をも無理させることにつながります。
ただし、杖を使っていても、間違った使い方をしている人がいます。最大の間違いは、「杖をつく側」を間違っていること。杖は、「良い脚の側」の手に持つのが正しい。ドラマや映画を見ていても、悪い脚の側の手に持っていることがよくありますので、注意してください。
杖選びで大事なのは「長さ」です。自分の身長に合った杖を選ぶようにしましょう。機能性と使いやすさが重要ですが、それらを満たした上で、形やデザイン、材質にこだわるのも楽しいのではないでしょうか。
最近はおしゃれな杖が増えています。旅行に便利な折り畳みの杖や、ヘッド(手元)に薔薇(ばら)が装飾された、パーティーなど華やかな場所に似合うような杖も市販されています。
様々な杖がそろう日本初のステッキ専門店「ステッキのチャップリン」を設立した山田澄代さん(日本転倒予防学会の仲間の一人)は、3歳のときにポリオ(小児まひ)にかかって後遺症があり、杖が欠かせない生活を送ってきました。57歳のときに社会貢献をと思い立って店をオープン。杖に対するイメージを変えようと、83歳になる現在も精力的な活動を続けています。
杖の選び方や、つき方を教えてくれるサービスをセットした「杖のギフトセット」や「杖のギフト券」があったらいいなあと、ふと考えたりしています。