転倒予防 Dr.ムトーの「転ばぬ教室」

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(8)~履き物選びの注意点 足裏と爪の健康が歩行を支える

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(8)~履き物選びの注意点 足裏と爪の健康が歩行を支える
予防・健康
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日本転倒予防学会の名誉会員でもある女優の水谷八重子さん(83)は、舞台に立つとき7センチくらいのピンヒールを履くとおっしゃっていました。お話したのはコロナ禍前だったので、彼女が70代のころ。水谷さんのような大女優でなくても、舞台に立たなくても、いつまでもおしゃれ心を持つ人は素敵です。

しかし、ヒールに限らず、足に合わない「靴」は転倒や外反母趾などのトラブルの原因になります。きれいに安全に歩くためには、正しい靴を履くよう心がけましょう。

靴選びのポイントは、サイズだけでなく、足の幅(ワイズ)が合っている靴を選ぶこと。また、甲まで足を覆ってくれるデザインが歩きやすい。足をしっかり包み込んでくれる靴を選ぶようにしましょう。

室内で履く「スリッパ」にも注意が必要です。スリッパはかかとが浮くために脱げやすく、高齢者には安定した歩行がしづらい履物です。階段や段差など、転びやすい場所をスリッパで歩くのは危険です。

「厚手の靴下」を履いているときに、転倒する人も少なくありません。足の裏からの感覚情報が得られにくいからです。部屋履きには、かかとまで覆われるルームシューズや、鼻緒もの(ビーチサンダル、ぞうりなど)をおすすめします。

本来、人は足の裏で、さまざまな情報をキャッチしています。しかし、現代人の足はいつも靴下や靴で大切に覆われており、本来、足裏が持っているはずの機能や感性を発揮しにくくなっています。たまには裸足になったり、鼻緒ものを履いたりして、足と足指を解放してあげてください。

足の「爪」も、転倒の原因となることがあります。

たとえば爪白癬(爪の水虫)は、高齢者の実に10人に1人の割合で見られます。爪に白癬菌(水虫菌)が感染することで起きる病気で、放っておくと爪が変形したり、ボロボロになります。爪が白濁してきたら、軽症のうちに適切なケアと治療をしてください。昔は「水虫は治らない」と言われましたが、今は良い飲み薬も塗り薬もあります。

ほかにも陥入爪・巻き爪など、爪に異常があると、足に力が入らなくなり、転びやすくなります。

爪の先ほどの小さな話かもしれませんが、爪は、あなたの体を守る小さな運動器。たまにはじっくりと爪と向き合い、爪を大切にしてください。

「健活手帖」 2022-06-16 公開
監修者
医師、東大名誉教授
武藤 芳照
1950年生まれ。医師。75年名古屋大学医学部卒業。東京厚生年金病院整形外科医長、東京大学教育学部教授、同大学理事・副学長、日本体育大学保健医療学部教授などを歴任。日本転倒予防学会初代理事長、一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。スポーツ医学、身体教育学等の著作は100冊を越える。現在、一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所代表理事・所長。東京大学名誉教授。