Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(7)~転倒予防のため水分「あと2杯」を心がけよう

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(7)~転倒予防のため水分「あと2杯」を心がけよう
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「年寄り“に”冷や水」

と、私は言っていますが、高齢者こそ、水分補給が必要です。日常の水分不足や脱水症状は、体調不全や健康障害を引き起こし、転倒に至ることがあるからです。

そもそも高齢になると、水分不足に気づきにくくなります。喉の機能が衰え、体は欲していても、喉の渇きを感じなくなってくるからです。ですから喉が渇いていなくても、こまめに水分を取ることが大切です。

1日、何ミリリットル飲めばいいですか? と聞かれたときの私の答えは、

「あと2杯!」。

毎日、今日は何ミリリットル飲んだ、あと何ミリリットルだと考えるのは面倒でしょう。あと2杯というわかりやすい心がけで、毎日の習慣は変わるものです。

具体的な数字をお伝えしますと、人が生きるのに必要な1日の水の量は約2500ミリリットルといわれています。

一方、私たちは1日の食事で約1000ミリリットルの水をとり、食べ物を分解するときに約300~350ミリリットルの水分(代謝水)を使っている。これらを引くと、1日に約1200ミリリットルの水を飲めば、必要な水分を確保できることになります。

ということは、500ミリリットルのペットボトルにして2~3本。これらを、起床時や日中、運動中や運動のあと、入浴の前後や寝る前などに分けて、こまめに飲むとよいでしょう。

運動のあとや食事どきに、冷たいビールで喉を潤したくなる人も多いでしょう。しかし、よく知られているようにアルコールには利尿作用があります。ビールを10杯飲むと、11杯分の尿が出る。喉を潤すどころか、ビールを飲めば飲むほど体から水分が奪われていくのです。アルコールを摂取したあとは、いつもより多めに水を飲みましょう。

コーヒーや紅茶、緑茶に含まれるカフェインにも利尿作用があります。これらを多く飲む人も、水をよく飲むようにしてください。私はスターバックスなどのセルフサービスのカフェでコーヒーを頼むときも、必ず水もお願いするようにしています。

夜中にトイレに起きたくないために、夕方以降、水分を控える人がいます。確かにトイレに起きるのはおっくうかもしれません。しかし、発想を転換して、こう考えてみてはいかがでしょう。

自分の脚でトイレに行かれるのは幸せなこと。

水分不足で脳血管・心血管の変調をきたして転倒してケガをしたら、自分でトイレに行けなくなるかもしれないのですから。もちろん、トイレに行く時と戻る時には、転倒に十分気を付けて。

「健活手帖」 2022-06-15 公開
監修者
医師、東大名誉教授
武藤 芳照
1950年生まれ。医師。75年名古屋大学医学部卒業。東京厚生年金病院整形外科医長、東京大学教育学部教授、同大学理事・副学長、日本体育大学保健医療学部教授などを歴任。日本転倒予防学会初代理事長、一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。スポーツ医学、身体教育学等の著作は100冊を越える。現在、一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所代表理事・所長。東京大学名誉教授。