転倒予防 Dr.ムトーの「転ばぬ教室」

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(6)~歩かなくなることが一番危ない 。「正しい歩き方」とは

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(6)~歩かなくなることが一番危ない 。「正しい歩き方」とは
文字サイズ

私はカフェの窓際に座って、道行く人を眺めるのが好きです。人それぞれの「歩き方」を眺めるのです。あの人は昨日、痛風の発作を起こしただろうな。あの人の左の膝は、変形性膝関節症の中程度だな…と見ているうちに、つい、時がたつのを忘れてしまう。

歩き方を見れば、その人の体の特徴がだいたいわかります。健康であるか、病気を抱えているか、そして転びやすいか。そのくらい、「歩き方」にその人の体の元気度、健康状態が出るということです。

正しい歩き方は、姿勢よく立ち、姿勢よく歩くことで生まれるもの。具体的には、(1)目線を前方において、(2)足先で地面を後ろに蹴り、(3)ももからしっかり動かして、かかとから着地する。この3つを意識してください。

反対に転びやすい歩き方にも、3種類あります。

第一に、膝が曲がって前のめりになった歩き方。視野が狭くなり、障害物につまずいたり、濡れたところですべりやすい。膝が曲がっているので、足が上がらずにつまずきやすくもなります。

第二が、腰が反った、いわゆる兵隊歩き。男性に多い歩き方で、重心が後方にあるため不安定な姿勢になります。

第三が、すり足チョコチョコ歩き。高齢者に多い歩き方です。前のめりで視野が狭い上に、つま先が上がらないのでつまずきやく、また歩幅が狭いので、段差でつまずいたりもします。

歩く速度が遅い人ほど転びやすく、速い人ほど転倒しにくいこともわかっています。歩くのが遅くなった人は注意しましょう。

何より大事なのは日頃から「よく歩くこと」。あまり歩かない人は、よく歩いている人に比べて、筋力やバランス能力を鍛える機会と時間が短いぶん、転びやすくなる。

「歩かなければ歩けなくなり、転びやすくなる」、と心に刻んでください。1日5分でもいいのです。普段の積み重ねが大事なのです。最初は「1週間に1時間くらいしっかり歩く」ことから始めましょう。

散歩をしていると、四季の変化に気づいたり、道行く人とあいさつを交わしたりして、おのずと心を動かされます。

古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、「ライフ・イズ・モーション」と言いました。生きていることは動いていること。このモーションには、「体」のみならず、「心」の動きが含まれていると私は捉えています。体が動けば心が動く。心が動けば体が動く。歩くことで転倒予防に、そして、実り豊かな人生につなげましょう。

「健活手帖」 2022-06-14 公開
転倒予防 Dr.ムトーの「転ばぬ教室」
お友達に教える&クリップ保存
監修者
医師、東大名誉教授
武藤 芳照
1950年生まれ。医師。75年名古屋大学医学部卒業。東京厚生年金病院整形外科医長、東京大学教育学部教授、同大学理事・副学長、日本体育大学保健医療学部教授などを歴任。日本転倒予防学会初代理事長、一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。スポーツ医学、身体教育学等の著作は100冊を越える。現在、一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所代表理事・所長。東京大学名誉教授。