転倒予防 Dr.ムトーの「転ばぬ教室」

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(4)~転びやすい場所は「ぬ・か・づけ」で覚えよう

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(4)~転びやすい場所は「ぬ・か・づけ」で覚えよう
予防・健康
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97歳まで現役漫才師として活躍し、2年前に亡くなられた内海桂子さんは、「転倒のプロ」であり、「リハビリのプロ」でした。転倒による骨折を繰り返しながらも、そのたびに懸命のリハビリテーションを経て、舞台に復帰されていたからです。

内海さんは東京駅の階段で足を踏み外して、34段転がり落ちたこともあります。駅に限らず「階段」は転びやすい場所の一つです。

階段のほかにも、私たちの身の回りには「転びやすい場所」があります。転倒予防のために注意しなければいけない場所を、「ぬ・か・づけ」と呼んでいます(日本転倒予防学会提唱)。

「ぬ」=濡れているところは滑りやすい

「か」=階段・段差はつまずきやすい

「づけ」=片付けていないところは、引っかかったり、つまずきやすい

「ぬ」から見ていきますと、濡れている場所の筆頭は「浴室」です。実際に、家の中での浴室で高齢者が転倒して大ケガをする事例は多いのです。気持ちよく入浴を楽しむためにも、浴室や銭湯・温泉では転倒に注意しましょう。

屋外では、横断歩道の白いペンキ部分やマンホールの蓋など、路面の材質が変わり、滑りにくい路面から滑りやすい路面に足を踏み入れるとき、気を付けてください。雨に濡れているときは、特に要注意です。

「か」でいえば、階段のほか、エスカレーターでの転倒事例も少なくありません。俳優の宝田明さんは生前、下りのエスカレーターに乗車中、後方から急いで降りてきた人に背中を押され、両手がふさがっていたため、額から前方に転がり落ちるという事故にあっています。気を付けたい場所です。

そして「づけ」は、家の中のコード類を整理しましょう。新聞や広告のチラシも足を滑らせる原因になります。床の上の小物を片付ける習慣が、転倒予防につながります。

今年も活躍中の大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)が、野球以外のふるまいで米メディアの称賛を浴びたことがあります。

それは、試合中にさりげなくゴミを拾い、お尻のポケットにしまい込んだというもの。「ゴミがあるために滑って転んだりする人もいる。そういうつまらないケガを自分もですけど、周りの人にもしてほしくない」と、大谷選手は語っています。元々は「ゴミを拾うことで運を拾う」という、花巻東高校時代の佐々木洋監督の教えだそうです。

ゴミを拾うことで、誰かの転倒を防げるかもしれない。そしてその行いはもしかしたら、運をも拾うことになるかもしれません。

「健活手帖」 2022-06-10 公開
監修者
医師、東大名誉教授
武藤 芳照
1950年生まれ。医師。75年名古屋大学医学部卒業。東京厚生年金病院整形外科医長、東京大学教育学部教授、同大学理事・副学長、日本体育大学保健医療学部教授などを歴任。日本転倒予防学会初代理事長、一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。スポーツ医学、身体教育学等の著作は100冊を越える。現在、一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所代表理事・所長。東京大学名誉教授。