転倒予防 Dr.ムトーの「転ばぬ教室」

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(2)~あなたは転びやすい人? すぐにできるセルフチェック

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(2)~あなたは転びやすい人? すぐにできるセルフチェック
予防・健康
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「絶対に転ばないためにはどうしたらいいですか?」と聞かれることがあります。

その答えは「絶対に立って歩かないこと」。

でも、お分かりのように、これは正解ではありません。人間の生活と幸福を無視しているから。転ばないに越したことはありませんが、私たちは転ばないためだけに生きているわけではありません。

その上で、できるだけ転ばないようにしたいもの。そのために必要なのは、転ばないように注意すると同時に、自分の「転びやすさ」を知ることです。高齢になって転ぶのは、加齢による体の機能の低下だけではなく、それまでの生活習慣や運動不足などが積み重なって、転びやすい体になってしまった結果でもあるからです。

転倒の原因は、①老化②病気③運動不足―の3つ。すぐにできる「転びやすさ」のセルフチェック法をお伝えしましょう。

第一に、身長が縮んできたら危ない

50代から70代にかけて身長は縮んでいきます。とりわけ女性は顕著で、7センチ以上も縮んだ人もいます。当然、男性も縮みます。身長が縮む原因は、骨の老化で骨が縮むこと、椎間板(ついかんばん)という軟骨が縮むこと、その結果、姿勢が悪くなっていくこと。これらの複合要因で、誰もが身長は縮むのです。子供の「背くらべ」と同様に50代を過ぎてからの定期的な身長測定をおすすめします。

身長が縮み、前かがみの姿勢になると、歩き方が変わります。すり足歩きや、ちょこちょこ歩きになるのです。つま先が上がらないこうした歩き方は、つまずきやすくなりますし、前のめりで視野が狭くなり危険です。

つまり「歩き方」が変わってきたら危ないのです。

歩き方のいちばんのポイントは、後ろ足のつま先できちんと後方に蹴ること。しっかりと蹴れていれば、歩幅が広がり、かかとから付くことができます。「蹴る → かかとから付く」を意識してみてください。

男性に多いのですが、体を反らして歩く人がいます。姿勢が良いようにも見えますが、足元を見ると、「蹴る」動作が弱い。後ろ重心で不安定にもなり、おすすめできません。

歩く「速度」が落ちてきたときも要注意。青信号のあいだに、余裕をもって横断歩道を渡り切れなくなったら、速度が落ちてきたと認識してください。

年を重ねて体が変化するのは、当然のことです。その変化に気づき、変化を受け入れ、変化に対応することが、転倒予防につながります。

「健活手帖」 2022-06-08 公開
監修者
医師、東大名誉教授
武藤 芳照
1950年生まれ。医師。75年名古屋大学医学部卒業。東京厚生年金病院整形外科医長、東京大学教育学部教授、同大学理事・副学長、日本体育大学保健医療学部教授などを歴任。日本転倒予防学会初代理事長、一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。スポーツ医学、身体教育学等の著作は100冊を越える。現在、一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所代表理事・所長。東京大学名誉教授。