おすすめ記事 転倒予防 Dr.ムトーの「転ばぬ教室」

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(1)~交通事故死よりも多い「転倒死」 転びやすくなるのは“命の黄色信号”

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(1)~交通事故死よりも多い「転倒死」 転びやすくなるのは“命の黄色信号”
予防・健康
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「転倒」や転落による死亡は、今や交通事故死よりも多いです。ここ20年間で、交通事故による死者が3分の1に減りましたが、転倒や転落による死亡は、1.5倍になりました(厚生労働省 人口動態統計)。

これは、日本が世界一の長寿国になったことの証しかもしれません。交通事故死の減少は喜ばしいことですが、転倒死が急増していて長い老後を健やかで実りあるものにできなければ、真に豊かな社会とはいえないでしょう。

老後の暮らしに大きな影響を与えるのが「転倒」です。要介護や寝たきりになる主要な原因の一つが転倒、そして転倒の結果として起きる「骨折」だからです。この転倒をどのように防ぐか。私は1997年に日本初の「転倒予防教室」を創設して以来、長年にわたって、転倒予防に取り組んできました。

人は、いつか、転びやすくなります。健康なときより、病気のときのほうが転びやすい。運動している人より、運動不足の人のほうが転びやすい。若い人より、老いた人のほうが転びやすい。転びやすさの程度はありますが、いつかは、誰もが、転びやすくなるのです。

ねこ好きの我が家には2匹のねこがいました。瞬発力に優れた茶トラのモモ君と、持久力タイプのアメリカンショートヘアのチェリーちゃんです。それぞれに元気なねこでしたが、晩年になると、ジャンプ力抜群だったモモは椅子に飛び乗ろうとしても失敗して落ちるようになる。チェリーはよろめいて、壁際でしか歩けなくなる。しばらくして、命の灯が消えました。

長寿のねこたち(モモ19年、チェリー22年)を見送って改めて思ったのは、転んだり、よろめいたりするようになるのは、命の灯が消えゆく前兆なのだ、ということです。つまり「転倒は命の黄色信号」。この認識を持つことが、転倒予防の第一歩です。

四足歩行のねこ以上に、直立二足歩行の人間は不安定です。そんな人間が「黄色信号」になったとき、どうすればよいのか。黄色信号を青信号に戻す、それが難しくても、赤信号にならないための具体的な方法を、この「転ばぬ教室」でお伝えしていきます。

人は転倒しやすくなると言いました。このとき、必ず「サイン」があります。そのサインにできるだけ早く気づけば、ご本人も家族も幸せです。医療費や介護費にアップアップしている日本社会も幸せになるでしょう。人は永遠に生きることはできませんが、生きているうちはイキイキと生きたい。転倒予防が、イキイキとした人生をおくる手助けになればと願っています。

「健活手帖」 2022-06-07 公開
監修者
医師、東大名誉教授
武藤 芳照
1950年生まれ。医師。75年名古屋大学医学部卒業。東京厚生年金病院整形外科医長、東京大学教育学部教授、同大学理事・副学長、日本体育大学保健医療学部教授などを歴任。日本転倒予防学会初代理事長、一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。スポーツ医学、身体教育学等の著作は100冊を越える。現在、一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所代表理事・所長。東京大学名誉教授。