男と女の“最新もれ事情” 尿漏れ 泌尿器

男と女の“最新もれ事情”(5)~「おしっこ問題」の解決方法は まずは生活習慣の見直しを

男と女の“最新もれ事情”(5)~「おしっこ問題」の解決方法は まずは生活習慣の見直しを
病気・治療
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尿問題で悩んでいるなら、まずは生活習慣を見直してほしいと指摘するのは、泌尿器科専門医の鈴木康之・東京都リハビリテーション病院副院長。

「おしっこをたくさんするために水をいっぱい飲む、たくさんおしっこをするのが体に良い―と思っている方が多いですが、それには程度があります。実はなかなか治らない頻尿で専門施設を紹介される患者さんの多くは過剰飲水が原因。大原則として、ヒトの体内水分量は一定であること。余分に飲んだ水分は必ず外に尿として出ます。水分だけでなく、塩分や糖分も、過剰・欠乏どちらも体に大きな負担になります。“ほどほど”が健康維持の秘訣です」

では、いったいどれぐらい水分を摂ればいいのか。

「通常、成人は1日2リットルの水分が必要と言われますが、多くを食事で摂取できているので2リットル飲むと、余分な水分が大量の尿となって“頻尿”になります。体内に入った水分は、汗や呼吸で出されますが、その量は温度や湿度の影響で変動します。また、便からも水分は少量出ていて、強い下痢では大量に失われます。腎臓は体内の余分な水分量を精密に計算して尿量を決め、水分量が不足すれば水が飲みたくなる反射を誘導します。つまり健康な人はのどが渇いたときに水分を飲めば必要な水分量は賄えているのです」

そのコントロールのために、自分でできることはあるのか?

「オススメは毎回の尿量と時刻を記録した『排尿日誌』をつけること。24時間分を記録する必要がありますが、2日程度で状況が判定できます。これで想像以上に多くのことがわかります」

正常の尿量は、体重により異なるが、40キロの人は1日1000cc、60キロの人なら1500cc程度だというが、自身の尿量を正確に把握している人はまずいないだろう。通常、1回の尿量は200~400ミリリットル程度で1日5、6回の排尿で1日分の尿量を出せる。

過活動膀胱や前立腺肥大症などの疾患では、1回の尿量が減少し、頻尿に。一方、飲水過多の人は、1回の尿量は減少しないが頻尿となる。

頻尿治療薬は1回の排尿量を増やす作用なので、水分の過剰摂取が原因の場合には効果がなく、病院では「難治性頻尿」という病名がつく。

専門病院では排尿日誌による診断がなされ、適正な飲水量を調整するよう指導される。

「若い人は、水分量が不足していれば喉の渇きを自覚できますが、年をとると気がつきにくくなります。だからといって、高齢者に『水分を取りましょう』と啓蒙しすぎるのも問題。どんどん飲んで夜間にトイレに起きて、転倒して骨折してしまえば本末転倒です」

他にもできることはないのか。

「頻尿患者さんは、少し尿がたまったらすぐにトイレに行くのが習慣化すると、症状を悪化させる傾向があります。尿意を感じても少し我慢することは有効です。おしっこ以外の関心のあることを考えると楽になるようです」

排尿日誌の尿量が適切で、頻尿や尿もれが解決せず、排尿痛、尿の色に異変がある場合は、臆せず泌尿器科に受診することが肝要だ。治療法は日進月歩。高齢化社会を健康に過ごすために専門医が強い味方になってくれるはずだ。
 

縦軸に排尿した時刻、横軸に尿量(ml)、がまんできない尿意(〇印)、尿もれ(〇印、またはパッドの重さ)、飲み物の量(ml)を書き込む

鈴木康之(すずき・やすゆき)

医師。東京都リハビリテーション病院副院長。日本泌尿器科学会専門医指導医。日本排尿機能学会評議員認定医。独立行政法人医薬品医療機器総合機PMD専門委員。厚生労働省医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会委員。日本創傷・オストミー・失禁管理学会評議員。

頻尿・尿もれに備える

□定期健診を受けるなど日々の健康管理
□排尿日誌を2日間がんばってつけてみる
□メタボ予防対策
□適度な全身運動
□骨盤底筋訓練(男性は構造的に骨盤底筋がゆるむことは少ないが加齢により緩んでくる)
□尿もれパットに頼り過ぎはNG
□水分の摂り方に気をくばる
□おしっこタイマー膀胱訓練(尿意を感じた時、骨盤底をキュと締めて意識してトイレに行くのを我慢する)

「健活手帖」 2023-04-22 公開
執筆者
医療ライター
熊本 美加
東京生まれ、札幌育ち。医療ライター。性の健康カウンセラー。男性医学の父・熊本悦明の二女。大学卒業後、広告制作会社を経てフリーライターに。男女更年期、性感染症予防と啓発、性の健康についての記事を主に執筆。2019年、52歳のとき、東京・山手線の車内で心肺停止となり、救急搬送され蘇り体験をする。以来、救命救急、高次脳機能障害、リハビリについても情報発信中。著書『山手線で心配停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』(講談社)。