男と女の“最新もれ事情” 尿漏れ 泌尿器

男と女の“最新もれ事情”(4)~男の尿もれの原因は様々、大きな原因は「前立腺肥大症_

男と女の“最新もれ事情”(4)~男の尿もれの原因は様々、大きな原因は「前立腺肥大症_
病気・治療
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夫が妻に自分の尿漏れを語ることはないだろうが、男性も加齢とともに尿漏れに悩む人が増えてくる。男性の“もれ事情”はどうだろうか。排尿障害に30年以上取り込んでいる鈴木康之医師を訪ねた。私が高次脳機能障害で入院した東京都リハビリテーション病院の副院長である(詳しくは、拙著『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』に)。リハビリ病院には脳梗塞・心筋梗塞などの後遺症で、尿もれに悩まされる患者も多いという。鈴木副院長が説明する。

「患者さんには、まず既往歴を伺います。過去に中枢神経系の疾患、脳卒中などがないか。尿の貯蔵・排出は脳がコントロールしていますので、中枢神経に何か疾患があると尿もれの原因になり、『過活動膀胱』や『切迫性尿失禁』につながります。また加齢、動脈硬化、糖尿病、メタボも頻尿や尿失禁になります」

現在、メタボ気味の人は頻尿の先に失禁のおそれがある上、命にかかわる生活習慣病の引き金になりかねない。早めに改善しておこう。

そして、男性の尿漏れの大きな原因となるのが前立腺肥大症だが、実は診断基準は曖昧なのだそう。「男性が年をとっておしっこが近くなったら『前立腺肥大症』と診断されます。前立腺は正常では20グラム程度、栗ぐらいの大きさですが、何グラム以上という基準はなく、100グラムでも何も症状がない人もいます。サイズだけではなく、症状と尿道が狭くなっているかで見極めます」

前立腺肥大の患者は、尿道周囲の筋肉の動きが不十分になるため、尿の切れが悪くなる。さらに膀胱の血流の悪化が加わると、知覚過敏で急な尿意を覚えたり、トイレに間に合わないことも起きる。また、飲酒は前立腺を浮腫(むく)ませる上に、アルコールは直接尿道の粘膜を刺激するため、尿もれリスクが高まるというから要注意だ。

一方、前立腺がん治療の予後はどうか。

「前立腺がんで前立腺全摘手術を受ける患者さんは増加の一途ですが、近年は手術技術の改良やロボット手術支援システムのおかげで、尿失禁やEDになる方は激減しました。それでも、体質やがんの位置などの影響を受ける方もまだまだいます」

尿もればかりでなく、夜間頻尿に悩む男性も多い。

「健康成人であれば、1日の尿量のほとんどを日中に作る能力があるので、就寝後にトイレに行くことはまずありません。しかし、年をとると男女ともに、夜間の尿量を減らす抗利尿ホルモンが減少します。また、心臓のポンプ機能の低下で、日中は腎臓まで十分に血液を運ぶ余力がなくなるため、ようやく腎臓に十分な血液が供給される夜間に尿が多く作られることも夜間頻尿の原因です。ただ、血液中の老廃物は腎臓を経て尿の中に放出されるので、夜間に尿を作り出すのはとても大事です」

夜間頻尿は尿量に関係なく、眠れないためにトイレに行くパターンもあるため、眠れる環境を整えることが重要になる。寝酒を飲む人もいるが、入眠できても中途覚醒が起きやすいので避けたい。

 

鈴木康之(すずき・やすゆき)

医師。東京都リハビリテーション病院副院長。日本泌尿器科学会専門医指導医。日本排尿機能学会評議員認定医。独立行政法人医薬品医療機器総合機PMD専門委員。厚生労働省医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会委員。日本創傷・オストミー・失禁管理学会評議員。

男性の尿もれ・頻尿と原因

――排尿後尿滴下――
原因:加齢による筋力低下、前立腺肥大

――過活動膀胱――
原因:加齢、前立腺肥大、テストステロン低下、メンタル

――夜間頻尿――
原因:加齢、テストステロン低 下、無呼吸症候群、内科疾患、薬の副作用、骨盤底筋力低下

「健活手帖」 2023-04-21 公開
執筆者
医療ライター
熊本 美加
東京生まれ、札幌育ち。医療ライター。性の健康カウンセラー。男性医学の父・熊本悦明の二女。大学卒業後、広告制作会社を経てフリーライターに。男女更年期、性感染症予防と啓発、性の健康についての記事を主に執筆。2019年、52歳のとき、東京・山手線の車内で心肺停止となり、救急搬送され蘇り体験をする。以来、救命救急、高次脳機能障害、リハビリについても情報発信中。著書『山手線で心配停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』(講談社)。