私(執筆者=熊本美加)は男性ホルモン=テストステロン低下による「男性更年期障害」について、長年取材を続けてきた。それは“男性医学の父”と呼ばれた研究者で医師の熊本悦明を父に持った影響が強い。昨年、92歳で他界した父のメモリアルシンポジウムを第22回日本メンズヘルス医学会で開いていただいた。そこで巡り合ったのが、メンズヘルス専門チャンネルの登録者9万人以上から支持を集めるフリーランスの看護師、マッキーさんである。
彼女がその会員男性(40~60代がボリュームゾーン)にLINEを通じて「泌尿器科に対して伝えたいこと」「メンズヘルスについて考えていること」などのアンケートを実施した結果が興味深い。

556人の回答で、「勃起・射精障害」「男性更年期障害」に関すること以上に「おしっこ問題」の悩みが多いのに驚いた。自由回答にも「尿漏れ」「頻尿」「残尿感」「夜間頻尿」といった言葉がズラリ。同時に、尿漏れなど“シモ”の悩みで泌尿器科を受診するのは「恥ずかしい」「敷居が高い」と二の足を踏む男性の様子が垣間見えた。
なぜ、男性が泌尿器科に足が向かないのか、とマッキーさんに聞くと、「男性に限らず女性も“おシモ”のトラブルは即座に命に関わる訳ではないこともあるでしょう。<人には相談しにくい <どんな症状でどの病院に行くべきかわからない <単純に尿という響きが嫌 <泌尿器科という名前を変えてほしい といった意見も聞きます」と苦笑する。
しかも、年を重ねるにつれ、だれにとってもこれらの悩みは身近になる。軽い尿もれケア専用品から大人用紙おむつまで手掛ける衛生用品メーカーのユニ・チャームが実施した「下着汚れのトラブル」に関する男女2万人の意識調査」(2017年)を見てみよう。
それによると、成人の4割が「尿もれ」を経験、さらに3割近くが「便もれ」を経験していた。その半数が下着に汚れがつくことで「ストレスを感じる」と回答。「気分の落ち込み」(69.0%)、「外出中の不安」、(57.5%)など精神面への影響は大きい。また、下着汚れが原因で外出する場所や距離を制限するようになり、あげく外出そのものをためらうようになる傾向も明らになってきた。
引きこもり傾向になれば、心身の健康が損なわれ、フレイル(加齢による虚弱)や認知症の遠因になりかねない。たかが「下着汚れ」ではすまされず、高齢化社会でわれわれが真剣に立ち向かうべき問題なのだ。
にもかかわらず、「下着汚れについて、どなたかに相談したことはありますか?」という問いには、「誰にも相談したことがない」が7.5%。1人で悩みを抱える人がいかに多いかがわかる。
「当社が女性用の尿もれケア専用ライナーを発売したのは、1997年です。そこから徐々に世間で尿もれに対して認知が進み、抵抗感は徐々に薄れてきています。ご主人から奥さまに相談したり、ご主人の下着の汚れに気がついた奥さまがアドバイスをしたりするケースもあります」とユニ・チャーム広報担当者の渡邊仁志氏。
同社の「男性用尿もれパッド」の発売開始は2014年。発売当初は3種類だったが、現在は尿量別に10~250ccまで7種類あり、市場規模は当時の約6倍になっている。
マッキー(まっきー)
1985年生まれ。看護師として小児科10年、泌尿器科6年勤務後、2021年フリーランスとして独立。日本メンズヘルス医学会所属。YouTubeの「看護師マッキー【メンズヘルス専門】チャンネル」は、登録者数9万人突破の人気。