「飲むヒアルロン酸」で健常者の膝の違和感が緩和
医療ジャーナリスト 石井悦子

「飲むヒアルロン酸」が保険適用されないワケ
肌の真皮の構成成分の一つ、ヒアルロン酸。肌のうるおいとハリを保つ役割を果たしているが、膝などの関節内にも含まれ、関節がなめらかに動くための潤滑油の働きをしたり、衝撃を和らげるクッションのような働きをしている。
変形性膝関節症の治療としては、効果が認められているヒアルロン酸の関節内注射が保険適用で、「飲むヒアルロン酸」については認められていない。それには、理由がある。
変形性膝関節症の主訴、痛みをなくすための治療で最も効果があるのが、人工関節置換術だ。全身麻酔をして数週間以上の入院・リハビリが必要になる。また両足の手術となるとそれらがさらに延びる。そうしたことを考えると、手軽なサプリメントでまずは様子を見たいのが人情だ。だが先延ばしした結果、早く受診すれば比較的簡単な手術ですんだはずが、より大掛かりな手術に、あるいは最悪手術ができなくなることもあるのだ。
だからといって「飲むヒアルロン酸はダメ」と考えるのは早計。膝の痛みは、あるとき急に出るわけではない。大切なのは医師への相談と、エビデンスのある予防だ。

病院にいくまでもないが、膝の違和感などをもつ市民ランナーを対象に、ヒアルロン酸の経口摂取による効果をキユーピーと北海道教育大学の杉山喜一教授=写真右=が共同研究を行い、膝の痛み・こわばり・違和感の緩和を確認した。
市民ランナーで検証 12週間後有意に改善
今回の研究は、診断済みの患者ではなく、日常生活で膝の違和感を経験したことのある健康な成人を対象にした。変形性膝関節症の重症度を判定するためのKL分類で、グレード0または1と評価された一般市民ランナー56人を被験者とした。
ヒアルロン酸を飲む群(27人)とプラセボ群(29人)に分け、前者はヒアルロン酸を1日あたり120(ヒアルロン酸Naとしては111)ミリグラム、後者はデキストリン(デンプン)を同量、同じ見た目のカプセル形状で12週間摂取してもらった。ヒアルロン酸の量について、キユーピー広報によると、「これまで病者を含む研究では、200ミリグラム/日で膝への機能が確認されておりましたが、今回は健常者対象のためそれより低用量にて機能を検討いたしました」とのことだ。
その間、「痛み」「こわばり」「違和感」について、「起床時の膝」「階段を上るときの膝」などの7項目をVAS(痛みを0~10までの幅で患者に指し示してもらう評価法)を用いて評価。その結果、7項目の総点として、「痛み」「こわばり」「違和感」が12週間後に有意に改善していることがわかった。また7項目のうち、「階段を下りるときの膝の違和感」「普段より長時間もしくは長距離歩行したときの膝の痛み」についても、12週間後に有意に改善したという。
杉山教授は、「これまでは、変形性膝関節症患者を含むグループに対し、ヒアルロン酸の機能が報告されていましたが、本研究によって疾病前段階の健康な方に対して、膝の違和感などの緩和機能が確認されました。健康ではあるものの膝に不安のある方に対し選択肢を増やす可能性を見いだせた点で、本研究の意義は大変大きいと考えます」と話す。
整形外科を受診する大切さを念頭に置きつつ、ヒアルロン酸のサプリメントを膝の違和感が生じた早期から意識的に摂取することは悪い方法ではなさそうだ。