闘病記

山手線で心肺停止から生還したアラフィフ医療ライターの教訓

山手線で心肺停止から生還したアラフィフ医療ライターの教訓
コラム・体験記
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心臓突然死と聞くと、怖ろしい半面、「ごく稀に起こる不運なケース」と思う人もいるだろう。実は日本では7人に1人が心臓突然死で亡くなっている。心肺停止から生還、仕事復帰も果たした医療ライターの生々しい著書を紹介したい。

ツイッターで大反響を呼んだ「蘇りルポ」がマンガ付きの実用書になった。『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』(講談社刊)だ。

著者の熊本美加氏=写真=は、自身も医療記事などを取材する立場だったが、2019年11月に、仕事の打ち合わせに向かう山手線内で突然倒れ、救急搬送された。

毎年、自治体の健康診断やがん検診などは欠かさず受診して、問題は見つからず、家族に心疾患で亡くなった人もいなかったという。心肺停止の原因は、ストレス負荷がかかると冠動脈が細くなる「冠攣縮性狭心症」という隠れ心臓病だった。

2週間前に胸の痛みを感じていたが、痛みはしばらくすると引いたため、それほど気にしなかったという。

突然の心肺停止という事実に加え、ショッキングなのは、「山手線内」で起きたこと。だが、逆にこれが幸いした。周囲の人がすぐ救急通報してくれた。駅員が即座にAEDを4回も作動させ、それでも心臓が動かなかったため、駅員たちは救急隊が来るまで心臓マッサージを続けたという。

心肺停止後の数分が生死の分かれ目となる。

酸素不足による脳細胞の壊死を最小限に食い止めるためには、血流を少しでも脳に送ることが重要だ。これがもし自宅などで、1人で過ごす時間だったら…思わずゾッとする人は多いだろう。

著者は一命を取り留めたが、「高次脳機能障害」と診断され、リハビリ病院に転院する。そこで奇跡的な回復を遂げ、社会復帰に向けて在宅リハビリを続けた。

しかし、またしても胸の痛みに教われ、自ら救急車を呼ぶ事態に。ここで生きたのが、心肺停止した際、身元がわかるものや医療情報を示すものがなく確認に時間がなかったという経験と、次の「もしも」の備えだ。

 

「もしも」に備える医療情報

①基本情報(名前・年齢・住所・身長・体重・血液型など)

②医療情報(かかりつけ医の連絡先、持病、病歴、アレルギーの有無、お薬手帳など)

③緊急連絡先の記入

④健康保険証など各種証明書など(※情報をまとめてポーチなどに入れておくと便利)

 

著者はこう語る。

「『心臓突然死』は他人事ではありませんでした。『まさか』は健康そうに見えたごく普通の中高年の私を襲ったのです。幸いたくさんの方々のお力で生き延びることができました。『私の体験を発信することで、誰かのお役に立てるかもしれない』と綴ったのが本書です。笑える漫画と、まさかへ備える情報をぎっしりと詰め込みました。何かひとつでも命を守るヒントがみつかればうれしいです」

著者が循環器内科の主治医から教えてもらった「病院に行くべき胸の痛み」を別項に記した。まさか、はあなたに来る可能性もある。

病院に行くべき胸の痛み

胸部症状を感じる場所

□胸全体

□ネクタイの範囲

□左の腕や奥歯に広がる

□手のひらより広めの範囲

胸部症状の感覚

□圧迫感

□鋭い痛みではなく重い石がのっかっているような重苦しさ

□何かにギュッと胸をつかまれるような感じ

□鈍痛と同時に左の奥歯がうずく

□冷や汗をかく

□痛みの長さは5分以上、または10~15分間、波がなく続く

□繰り返し症状が出る。頻度が増える

□突然脈が速くなった、遅くなった。脈の乱れが続く

「健活手帖」 2022-07-29 公開
執筆者
ジャーナリスト
田幸 和歌子
医療ジャーナリスト。1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。「週刊アサヒ芸能」で健康・医療関連のコラム「診察室のツボ」を連載中。『文藝春秋スーパードクターに教わる最新治療2023』での取材・執筆や、健康雑誌、女性誌などで女性の身体にまつわる記事を多数執筆。