闘病記 がんより怖い糖尿病体験記

がんより怖い糖尿病体験記⑦~本当の怖さは合併症、新型コロナにも弱かった

がんより怖い糖尿病体験記⑦~本当の怖さは合併症、新型コロナにも弱かった
コラム・体験記
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ようやく収束した感がありますが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック中は、多くの糖尿病患者が重篤化し、多くの方が亡くなりました。コロナは基礎疾患がある人を直撃し、特に糖尿病持ちの方は要注意でした。私も糖尿病患者の1人ですので、細心の注意をし、免疫力が落ちないようにしていました。

なぜ、糖尿病患者は新型コロナに弱かったのでしょうか?

それは、糖尿病が合併症を起こす疾患であり、高血糖が続くと、血管が損傷してボロボロになるからです。高血糖は白血球の能力を低下させます。白血球は、ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入して来ると、それらを食べたり、抗体をつくって排除したりします。つまり、免疫力の源泉で、その機能が低下すれば、新型コロナのような感染症にかかりやすくなり、かかれば重篤化してしまうのです。

糖尿病はいったん発症すると治せません。ただ、治療で進行を抑えることはできます。ですから、本当に怖いのは合併症なのです。

糖尿病の合併症には、大きく分けると細い血管に見られる合併症と、太い血管に見られる合併症の2つがあります。細い血管がまず影響を受けて損傷し、やがて太い血管にまで広がっていくと考えればいいと思います。

細い血管が引き起こす合併症の代表例が、「網膜症」です。目の網膜は細い血管の集まりで、ここがやられると視力が低下し、最悪の場合、失明します。

腎臓機能が悪化する「腎症」も細い血管による合併症です。腎臓は、血液を濾過(ろか)して老廃物を尿として排泄する役目の臓器ですの濾過を担う糸球体の毛細血管が損傷すると、腎機能が低下し、いったん低下すると元には戻りません。

腎症が進行すると、降圧剤による投薬治療やタンパク質の摂取制限などの食事療法が必要になり、さらに症状が進むと、人工透析が必要になります。

腎症が怖いのは、自覚症状がないまま進行してしまうことです。目で見て尿に異常があるかどうかは、一般の方にはわかりません。ですから血液検査は大切なのです。腎臓の機能は年とともに低下します。人工透析がなかった時代は、腎臓を悪くして死ぬのは「老衰」とされていました。

細い血管が損傷して血流が悪くなると、自律神経にも障害が起こります。「立ちくらみ」「下痢」「便秘」「排尿障害」「勃起障害」などの症状が起こります。

高血糖が続くと、太い血管では動脈硬化が加速します。動脈硬化が進むと、血流が途絶えたり、血管にこびりついているプラーク(細菌の塊)がはがれて血管に詰まったりします。こうして起こるのが、「心筋梗塞」「脳梗塞」です。

日本人の死因の第1位は「悪性新生物」、つまり「がん」ですが、2位は「心疾患」、3位は「脳血管疾患」です。

心臓、脳とも血管の疾患は死に直結します。心臓の血管が動脈硬化で狭くなると、動いている時に胸が痛く、安静にすると収まる「狭心痛」が起こります。安静時にも胸が痛くようになると「不安定狭心症」になり、狭くなった心臓の血管に血栓が詰まると「心筋梗塞」になります。私は、「狭心痛」を3回経験し、手術をして助かっています。糖尿病を発症しているので、いつまた起こるかわかりません。

「脳梗塞」が恐ろしいのは、一命をとりとめても、なんらかの後遺症を残す人が多いことです。手足の麻痺をはじめ、言語障害、視覚障害、感覚障害などが起こります。

このほか、「足壊疽(えそ)」「歯周病」「肺結核」「尿管狭窄」などの合併症があります。

「健活手帖」 2023-04-12 公開
執筆者
医師・ジャーナリスト
富家 孝
1947年大阪府生まれ。72年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。『不要なクスリ 無用な手術』(講談社)ほか著書計67冊。