闘病記 がんより怖い糖尿病体験記

がんより怖い糖尿病体験記⑤~「ぜいたく病」ではなく実は「貧困病」

がんより怖い糖尿病体験記⑤~「ぜいたく病」ではなく実は「貧困病」
コラム・体験記
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糖尿病は、日本の「国民病」と言われ、現在、潜在的な患者(糖尿病が強く疑われる者)も含めると患者さんは1000万人を超えているとされています。そのほとんどが高齢者ですから、高齢化が進めば進むほど患者数が増えるのは当然かもしれません。私も後期高齢者の仲間入りをし、糖尿病患者の1人として治療中です。糖尿病は放置すると、最終的に人工透析をしないと生きられなくなるので、とくに食事には細心の注意を払っています。

なぜなら、2型糖尿病は、遺伝的な影響に加えて、食べ過ぎ、運動不足、肥満などが原因で起こる生活習慣病だからです。糖尿病患者のうちの95%は2型糖尿病で、日本人はもともと遺伝的に糖尿病になりやすいとされています。そのため、糖尿病の克服が医療界の大きなテーマとなってきました。

糖尿病になると、昔よく言われていたのが、「ぜいたくの し過ぎ」。おいしいものを腹いっぱい食べ、その結果、糖尿病になると思われていたからです。つまり、「ぜいたく病」なのだと。そのため、糖尿病になるのは、「自己責任」とも言われていたのです。

5年前、麻生太郎財務相(当時)が、「自分で飲み食いして、運動も全然しない。医療費捻出はあほらしい」と発言したことがありました。また、フリーアナウンサーの長谷川豊氏が、「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ」と発言したことがありました。

しかし、こうした認識は間違っているのです。

近年の調査研究で、糖尿病の“不都合な真実”が明らかになってきました。それは、糖尿病が「ぜいたく病」ではなく「貧困病」であるということです。

全日本民主医療機関連合会(民医連)が、全国の医療機関96施設で40歳以下の2型糖尿病の患者800人を調査したことがありますが、わかったのは、年収が200万円未満の世帯が全患者世帯の57.4%を占めていることでした。患者の半数以上が非正規雇用で、低所得層だったのです。同様の調査は数多くあり、週60時間以上の労働、朝食抜きで22時以降に夕食を摂ると発症のリスクが高まるということも報告されています。

つまり、低所得者層ほど、安価で量が多く、空腹を満たしてくれる食品を多く摂ります。米やパンなどの炭水化物を主体とした食事になり、野菜や肉類をあまり摂りません。炭水化物といえば、その代表は、米であり、パン、麺類、芋類なども同類です。厚労省の調査では、低所得層ほど米やパンなどの炭水化物を主体とした食事になり、野菜や魚を摂らないという結果が出ています。

糖尿病が「貧困病」であることは、全世界共通です。アメリカでの調査結果も、ジャンクフードなどによる不健康な食事が死の原因になっていることが明らかになっています。メキシコ、インドなどでも糖尿病は国民病です。低所得層が炭水化物の過剰摂取で肥満となり、その肥満が糖尿病を引き起こしているというのが実態です。ピザやハンバーガー、タコスを常食し、糖分たっぷりの炭酸飲料を飲んでばかりいては、糖尿病になるリスクは急上昇します。

米心臓学会では、野菜や果物、精製されていない穀類や全粒粉、低脂肪の牛乳や乳製品、皮を取り除いた鶏肉、魚、ナッツ類や大豆などの食品を多く摂り、食生活を改善していくことを推奨しています。「生きることは食べること」ですが、食べ物は選ばなければ健康は保てません。

「健活手帖」 2023-04-08 公開
執筆者
医師・ジャーナリスト
富家 孝
1947年大阪府生まれ。72年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。『不要なクスリ 無用な手術』(講談社)ほか著書計67冊。