闘病記 がんより怖い糖尿病体験記

がんより怖い糖尿病体験記④~低血糖は高血糖以上にリスクあり

がんより怖い糖尿病体験記④~低血糖は高血糖以上にリスクあり
コラム・体験記
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糖尿病と言うと、誰もが「血糖値を下げる」ことが肝心だと思っています。一般的に、血糖値が高いのを糖尿病といいます。血液中の血糖値が高い状態が続くと、やがて血管が活性酸素により破壊され、全身に栄養が行き渡らず、さまざまな合併症(神経障害、網膜症、腎症、心筋梗塞など)を引き起こします。

しかし、血糖値を下げすぎると、今度は別のリスクが生じるのです。

長年、医者をやってきても、実際に病気をしてみないと、本当にわからないことがあります。

その1つが、糖尿病になり、その治療の最中に体験した低血糖症です。

糖尿病を発症してからすでに十数年、私は何種類かの血糖降下剤を毎日服用しています。そうしながら、食事療法を続け、血糖値を「HbA1c」(ヘモグロビン・エーワンシー)で6.5%未満にするよう努力しています。

糖尿病は、いったん発症すると治りません。上手く付き合うしかないのです。つまり、病気というより老化現象と言ったほうが的確です。

ただ、糖尿病を発症して老化していく中で怖いのは、高血糖ではなく低血糖です。低血糖になると、冷や汗をかいたり、目がかすんだりして集中力がなくなり、最後には言葉が出にくくなったり、ろれつがまわらなくなったりします。意識を失い倒れる場合もあります。

こうした低血糖の症状は医者にとっては常識で、糖尿病患者さんにクスリを処方するとき、「下がり過ぎたら危険ですので十分注意してください」と言うことになっています。そうはいっても医者自身はマニュアルにそっているだけで、低血糖になると、実際にどうなるか身をもってわかってはいないのです。

それがわかったのが、2015年5月のことです。私は初めて低血糖の症状を体験しました。自分の体調と食事を常にメモしているのですが、確認すると、午後2時ごろ、なにか嫌な感じがし、気持ちが悪くなりました。うまく説明できないのですが、しゃべるのさえいやになりました。

「低血糖というのはこれなのか」

知識としてあったものが、初めて納得できたのです。このとき、チョコレートを食べ糖分を補給して事なきを得ました。

その翌年の1月、午後7時ごろにも起こりました。風呂に入ろうとして、足に力が入らなくなったのです。私は急いで簡易測定器で空腹時血糖値を測り、35mg/dlと出たので、あわててチョコレートを食べました。そうして約1時間後、血糖値は82mg/dlまで回復しました(正常値は80~110mg/dl)。もし何もしなかったら、意識を失ったかもしれず、かなり危なかったわけです。

低血糖は75mg/dl以下といわれますが、数値的な定義はありません。「症状をきたすほど血糖値が低くなったもの」を低血糖と呼ぶだけです。放置すると、錯乱、けいれん発作、昏睡などに陥り危険です。即座に糖分を補給せねばなりません。

かつて、糖尿病はなんでもかんでも厳しく血糖値を下げれば合併症は防げると考えられてきました。それで、医者はどんどんクスリを出したのです。しかし、現在は低血糖を抑えながら治療していく処置が取られます。

高齢者に限らず、たとえば若い人が激しい運動をすれば血糖値は下がります。そうなると、心臓の働きが悪くなり、最悪の場合は突然死も起こります。そのため、スポーツでは糖分補給が非常に大事です。糖分は本来、エネルギー源だからです。

「健活手帖」 2023-04-07 公開
執筆者
医師・ジャーナリスト
富家 孝
1947年大阪府生まれ。72年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。『不要なクスリ 無用な手術』(講談社)ほか著書計67冊。