闘病記 がんより怖い糖尿病体験記

がんより怖い糖尿病体験記②~治らない病気というのは本当か?

がんより怖い糖尿病体験記②~治らない病気というのは本当か?
コラム・体験記
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残念ながら糖尿病は、いったん発症すると治す方法がありません。治療は進行をいかに抑えるかであって、生涯続けなければなりません。

糖尿病の原因は、「遺伝的要素」と「生活習慣」(食生活、運動など)の組み合わせとされます。私の場合、まさにこの通りで、母をはじめ身内に糖尿病が多く、若い時は暴飲暴食を重ねました。母校の相撲部の監督、リングドクターなどをしてきたので、食事は炭水化物が中心で、糖尿病になって当然です。

糖尿病の治療は、投薬、食事療法、適度な運動、インスリン注射などで、ともかく血糖値を正常に保つことがポイント。悪化して腎臓機能が低下すると、人工透析が必要となるので、手を抜いてはいけません。

いずれにしても、糖尿病の治療は血糖値を正常の範囲に保つことしかありません。治すわけではないので、治療とは言えないかもしれません。ただし、血糖値のコントロールを行うことで健康な人と変わらない生活が可能になります。そういう意味では、治療は「健康な状態を保つためのもの」と前向きに捉えることが大切です。私もそう自分を励ましています。

糖尿病は、膵臓でつくられるインスリンというホルモンの分泌不足、作用不足です。食事から摂取された糖分は小腸から吸収されて血管に入ります。血管の中に入った糖分は、インスリンによってエネルギーに変換され、全身に運ばれます。

ところが、糖尿病になると、インスリンを分泌する膵臓のベータ細胞が死んでいきます。もちろん、再生機能が失われない限りは大丈夫ですが、機能が失われるスピードのほうが速くなれば、インスリンが足りなくなります。そうなると、血液中の糖分が増えて血糖値が高くなります。

血糖値が高い状態が続くと、血管内に活性酸素が大量に発生し、血管がボロボロになります。適正な栄養の供給が途絶えて、臓器にさまざまな障害が起こってきます。

初期には自覚症状がありません。症状が出てもごく軽く、末梢神経まで栄養が運ばれないための手足の指のしびれや、肌のかゆみなどです。喉の渇きや発汗が多くなることがあります。日頃から企業健診、自治体の健診などで血液検査をしていれば、糖尿病は容易に発見できます。ただ、糖尿病疑いの約4割が治療を受けず放置しているというデータがあります。

一般的に血糖値の2~3カ月の平均であるHbA1c(ヘモグロビンA1c)が6.5を超えると糖尿病の疑いがあると診断されます。

糖尿病が悪化すると、さまざまな合併症が起きます。中でも腎臓が機能しなくなる糖尿病性腎症となれば、人工透析をしない限り生きられません。体内の老廃物を尿中に排泄できなくなり、放置しておくと尿毒症に陥るからです。人工透析が発明される前までは、こうして死んでいく患者さんが多かったのです。

とはいえ、人工透析は患者さんには大きな負担です。ほぼ1日おきに、4~5時間を要します。腎臓移植が最終手段ですが、日本ではドナーが少なく、希望してもできない場合が多いのです。

こうして見ると、糖尿病は「未病」のうちに、食事と適度な運動で防ぐほかありません。いまではスマホのアプリが自動的に血糖値を測定し、1日で注射するインスリンの量を計算してくれます。治療法の進化は、この先、患者さんの負担を軽くするでしょう。それでも糖尿病は完治する病ではありません。

「健活手帖」 2023-04-05 公開
執筆者
医師・ジャーナリスト
富家 孝
1947年大阪府生まれ。72年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。『不要なクスリ 無用な手術』(講談社)ほか著書計67冊。