肥満症と診断される11種の健康障害(合併症)のうち、睡眠時無呼吸症候群(SAS=サス)は睡眠時の病気だけに本人が知らぬ間に症状が出ている例が多い。日ごろから患者を注意深く観察している地域のかかりつけ医が異常を発見し、SASの重症化の危機を救ったケースがある。
東京都江東区の小野内科診療所の小野卓哉院長に対し、古橋義彦さん(50代・仮名)が「仕事中に集中力を保てない」と訴えた。古橋さんは、BMI(体格指数)値が35を超える高度肥満体型。その前に脳梗塞を起こして以来、後遺症に悩まされ続け、めまいや仕事に対する気力の低下、睡眠の充足感が得られない日が多くなってきた。小野医師はその都度、高血圧や糖尿病などのコントロールに努めてきたが、この時は違った。 「もしや脳梗塞の原因が動脈硬化以外にも存在し、その疾患が治らないから症状も消えないのでは」と考えた。シャツのボタンがきつそうな首元に着目し、検査を進めSASと診断した。「肥満者によく見られるのですが、首回りが太くなると、睡眠時に喉が圧迫され、舌が気道を狭くして呼吸が苦しくなります。それがSASの典型的な症状です」と小野医師。
10秒以上の気流停止を無呼吸とし、簡易検査法で夜間睡眠中に無呼吸が1時間あたり40回以上あればSASと診断が下される。1時間あたり40回未満の場合でもSASが疑われる場合はより精密な検査を行い、1時間あたり20回以上あればSASに該当する。
SASでは本人が知らないうち睡眠中に呼吸停止に陥る恐れがある。「放置すると、睡眠中に呼吸停止を繰り返し不整脈、高血圧、肺高血圧などが生じます。そうした状態が続くと、心筋梗塞、脳梗塞、心不全につながり、突然死のリスクが高くなります」
SASの治療方法として知られているのがCPAP(シーパップ)という治療だ。「夜間、就寝前に鼻マスクを着用してそこから空気を送り、狭くなりがちな気道を広げる方法です」
これによって古橋さんは、睡眠時の適切な呼吸を取り戻しつつある。職種によっては、より深刻な問題もある。
「タクシーやバス、トラックの運転手がSASと診断されれば、勤務先は乗務の仕事を外すことになります。このため会社には報告せずに働き続けるケースもあるようです」と小野医師は打ち明ける。自身だけでなく他人の命も危険に晒すことになるため、なにより治療を優先するべきだ。
小野医師は、運動不足・食事の乱れから太り、脳梗塞になった上山智美さん(40代・仮名)を診察したことがある。脳梗塞は、肥満症の11の健康障害に含まれており、上山さんも肥満症と診断された。SASも脳梗塞も、若い時のような運動をしていないのに高脂肪・高カロリーの食事を大量に摂り、生活も不規則な人に起こりやすい。
「上山さんも好き勝手に食べた結果の脳梗塞でしたが幸い、軽度の脳梗塞で一命を取りとめることができました」
小野医師は「一度太ってしまうと、自分1人で体重を減らすのはなかなか難しい。かかりつけ医や管理栄養士らの力を借りて、徐々に適正な食生活に変えていくことが大切でしょう」と呼び掛けている。
小野卓哉(おの・たくや)
1992年、日本医科大学医学部卒。同大学大学院医学科修了、東京医科歯科大学大学院MMA医療管理学コース修了。日本医科大学付属病院循環器内科を経て2006年に小野内科診療所に勤務、2016年に院長に就任。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医など。医学博士。