脳・脳疾患 「めまい」の正しい対処法

突然襲う「めまい」の正しい対処法②~更年期以降の女性に起きやすい「良性発作性頭位めまい症」

突然襲う「めまい」の正しい対処法②~更年期以降の女性に起きやすい「良性発作性頭位めまい症」
病気・治療
文字サイズ

めまいの原因は、脳、耳、ホルモン・自律神経系のいずれかに原因がある。中でも、約7割を占めるのは耳が原因のめまいだ。

「耳は平衡感覚をつかさどる三半規管や耳石器があるため、耳の障害で平衡感覚の脳への信号が乱れると、めまいにつながります。中でも、最も多いのが良性発作性頭位めまい症です」

こう話すのは、聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科の肥塚泉特任教授。「めまい外来」で5万人以上の診断・治療を行い、一般の人へのめまいの正しい知識と対処法の普及にも尽力している。

「良性発作性頭位めまい症は、中年期以降の女性に起こりやすく、布団から起き上がるなど、頭を動かした途端、激しい回転性のめまいに見舞われるのが特徴です」

耳の奥の三半規管は、その名のとおり、3つの半円の管(前半規官、後半規官、外側半規管)で成り立つ。そして、2つの袋状の耳石器(卵形嚢/らんけいのう、球形嚢/きゅうけいのう)によって、頭や体を動かしたときに回転や垂直、水平を感知する仕組みがある。良性発作性頭位めまい症は、この三半規管に耳石が紛れ込むことで生じる。

「更年期以降の女性は、炭酸カルシウムできている耳石器の耳石がもろくなり、はがれて三半規管に紛れ込みやすくなるのです。頭を動かしたときに、三半規管に入り込んだ耳石が移動することで三半規管を刺激し、本来の三半規管の情報とは異なる誤った情報を脳に送ることで、めまいを起こすのです」

たとえば、頭を上げたときに、三半規管と耳石器が脳へ情報を送ると、脳は瞬時に眼球を動かしバランスを取りやすくする。ところが、頭を上げたときに、はがれた耳石が三半規管の中で動くと、頭を上げた以外の情報が脳へ届けられてしまう。

「誤った情報があると、脳や眼球の動きが混乱します。患者さんの眼球の動きを見るとわかるのですが、眼球に小刻みな揺れが生じます(眼振/がんしん)。これが回転性のめまいにつながります。眼球が上下方向へ動くと、景色あるいは自分が上下方向に回転しているようなめまいが生じます」

良性発作性頭位めまい症では、三半規管に紛れ込んだ耳石の動きが止まれば、誤情報はすぐに修正されるため、30秒~1分程度でめまいの症状が治まることが多い。これで済めばよいのだが、三半規管に紛れ込んだ耳石が排出されないと、何度もめまいに見舞われてしまう。

「三半規管に紛れ込んだ耳石は、寝返りなどして排出される仕組みもあります。ただし、後半規管は耳石を排出しにくい位置なのです。そのため、耳石がたまりやすく、良性発作性頭位めまい症の最も多い原因になっています」

はがれた耳石の数が多ければ多いほど、当然のことながら三半規管にたまりやすい。加齢に伴う身体的な変化も耳石がはがれやすいことに関係しているという。

「良性発作性頭位めまい症」の症状が起こりやすい状況

【症状】
自分も周りもグルグルと回るような回転性のめまいが生じる。吐き気や嘔吐が伴うことも

【起こしやすい場面】
□布団から起き上がる
□寝返りをうつ
□人に呼ばれて急に振り向く
□高いところの物を取ろうとする
□顔を洗おうと下を向く

※肥塚泉監修『図解 専門医 が教える!めまい・メニエール病を自分で治す正しい知識と最新療法』(日本書 院本社刊)から

「健活手帖」 2023-03-08 公開
解説
聖マリアンナ医大教授
肥塚 泉
聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科特任教授。日本めまい平衡医学会顧問。1981年聖マリアンナ医科大学卒。大阪大学医学部、米ピッツバーク大学医学部などを経て2000年に聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科主任教授に就任。22年から現職。めまいの診断・治療・研究を数多く手掛けている。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。