医者のイメージと患者さんの受け止めにギャップが発生する「しばらく」「とりあえず」「最近」…
医学博士 中原英臣

診察室における曖昧な言葉があります。「しばらく様子をみましょう」「家に帰ったら安静にしていてください」「とりあえずお薬を出しておきましょう」といった医者との会話です。
これらの「しばらく」「とりあえず」「安静に」といった言葉は診察室で普通に使われています。
しかし、「しばらく」と言われてもどのくらいの期間なのかさっぱり分かりません。「しばらく」を巡って医者が考えている時間のイメージと患者さんが受けとめる間には大きなギャップがあります。それが「1週間」なのか「2~3日」なのか「1カ月」なのかは分かりません。医者から「しばらく」と言われたら「『しばらく』ってどのくらいのことでしょうか」とぜひ聞くようにしてください。
「とりあえず」という言葉も曖昧です。薬を処方されるときに「この薬は胃にきついのでとりあえず胃薬も出しておきます」と言われたことのある患者さんは少なくないはずです。しかし、どんな薬でもとりあえず飲むものではありません。
「家に帰ったら安静に」と言われた経験も皆さんあるかもしれませんが、この「安静」についても患者さんによって受け取り方が違います。医者に「安静に」と言われたら「横になっていなければいけない」のか「少しくらいは体を動かしてもいい」のかくらいは、ぜひ確認してください。
一方、言葉の問題は医者だけのものでもありません。多くの患者さんが「最近、胃の調子がおかしくて」と、「最近」という言葉を平気で使いますが、それが「2~3日前」なのか「1週間くらい前」なのか、それとも「3カ月も前」なのかはよく分かりません。
診察室における会話についてはそろそろ考え直すべきではないでしょうか。医者との会話は診療の基本です。医者も患者さんも具体的な言葉を使ってコミュニケーションをとることで、日本の医療から曖昧な言葉を追放してほしいものです。